女性が「やせたい」と言い出すのはなぜなのか。文化人類学者の磯野真穂氏は「生まれたときから『やせたい』と思っている人はいない。背景には、『やせている人の方が素敵である』という社会に共有された価値観がある」という——。

※本稿は、磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

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女性への「やせ礼賛」が浸透した90年代

私が初めて「やせたいな」と思ったのは中学生の時です。

いまやったら大問題になりそうですが、当時の身体測定は、男女別に部屋を分け、生徒をそれぞれ名簿順に並ばせた後、保健の先生が体重をみんなに聞こえるように大きな声で読み上げており、私はそれが嫌で仕方ありませんでした。

その頃の私の身長は155センチに少し足りないくらい。クラスの中では6番目か、7番目の身長でしたが、体重はもうすぐ50キロに差し掛かりそう。「こんなに小さいのに体重が50キロあるなんて恥ずかしい」と思っていたのです。当時の写真を見返しても全く太っておらず、なぜそう思ったのかはよく覚えていないのですが、とにかく50キロは絶対にダメな体重と思っていました。

後で調べてみてわかったのですが、私が中学生になった90年代は、女性に対するやせ礼賛の風潮が社会に浸透した頃でした。いまでも記憶に残っているのは、(たぶん)和田アキ子さんが司会をしていた夜の特番です。太った女性たち数人がサウナスーツを着て、必死に運動をしていました。プログラムをさぼったり、エクササイズを真剣にやらなかったりする参加者には、トレーナーから叱咤激励の声が浴びせられます。

彼女たちがなぜそこまでしてやせようとしていたのかは覚えていません。ですが、「やせること・やせようとすることは素晴らしい。一方、やせられないのは努力のできない、だめな人たち」というメッセージをその番組からはっきり受け取ったことは確かです。