また、同じように働く人の期待が裏切られたのが、人材育成の減少である。必ずしも、長期雇用の維持に関してではない。

実際、上記の労働政策研究・研修機構調査で、正社員については、原則として定年まで雇用すると答える企業は、いまだ85%程度存在する。また、同機構の04年調査によれば、70%程度の企業が、「長期安定雇用をできるだけ多くの従業員に提供したい」と考えており、対象者を限定したうえで、という制限をつける企業を含めると、「90%程度の企業が、できることならば、長期安定雇用の原則を維持したい」と考えている。その意味で、多くの企業が、正社員の長期雇用については、維持したいと考えているようである。

だが、問題はその次なのである。同じ労働政策研究・研修機構の調査によれば、約53%の企業が過去5年間、「従業員全体の能力向上を目指した教育訓練」を重視してきたと答えており、その傾向は、長期雇用の方針を維持すると答える企業でわずかに高い(約55%)のみである(ちなみに、逆に正規従業員について長期雇用を維持しないと考える企業では、約49%であった)。さらに、過去5年間で企業業績が上昇傾向にあったと答えた企業でも、約58%なのである。これを多いと見るのは難しいだろう。

では、従業員全体ではなくても、「一部の従業員を対象とした選抜的な教育訓練の実施」が行われてきたか、というと、こうした選抜型の人材育成を重視してきた企業は、全体の3分の1(約33%)しかおらず、長期雇用の維持・非維持にはほとんど依存しない。さらに、どちらの育成方針(従業員全体、選抜)も重視してこなかったと答える企業が、全体の3分の1(約33%)あり、企業業績が上昇傾向にあったと答える企業でも、あまり大きな違いはないのである(約31%)。

また、人事部が行う育成だけではなく、企業内能力開発の根幹であるOJT(現場での能力開発)にも変化の兆しが見えている。厚生労働省の能力開発基本調査によれば、職場での計画的なOJTの実施率は93年の74%から02年には41.6%へと減少傾向にある。もちろん、これは単純に、OJTに割けるだけの人員の余裕がないという理由からの結果である可能性もある。どの部署も適正人員の限界、または不足している状況下で業務をこなしているからである。いずれにしても、正社員の能力開発機会が失われているという点では同じである。

さらに、こうした傾向は、働く人の認識にも反映されている。「過去3年間を考えた場合、私の会社は、社員教育には全く関心がない」という文章に同意する割合が、全体の14.0%おり、「どちらともいえない」(18.7%)を加えると、実に3分の1近くが、自分の企業では過去3年間、社員の育成にあまり関心を払ってこなかったと答えているのである。

依然として、長期雇用に守られた正規従業員だが、過去15年は、人材育成の機会と投資の減少を経験してきたのである。これもバブル崩壊からの復活過程で失われた期待だろう。