王将では創業期から餃子や料理をタダや割引で食べられる試食券を配っている。1日に配る枚数は金額にして2000万円分。東京地区では餃子1人前が231円(税込)だから、約10万枚を毎日、配っていることになる。

「とはいえ、券をもらった人がみんな食べにくるわけではない」と言うのは大東社長。

「うちの券をもらった人が店にやってくる率はだいたい3%。だって、タダとか安いからという理由だけで、人は餃子を食べにくることはない。おいしいからとか雰囲気がいいからやってくる」

王将ではタダ券の配り方にも決まりがある。必ず正社員が配ること、頭を下げて丁寧に挨拶しながら配ることのふたつだ。

「よそさんが配るタダ券はサイドメニューとかジュースを無料にするサービス券でしょう。うちでは主力商品の餃子をタダにしています。主力商品をタダにするからこそ、来店につながる。サイドメニューではそうはいきません。また、タダ券は専門部隊が配ります。バイトではあきません。社員が道を歩いている人に心から感謝をして、王将です、どうぞ食べに来てくださいとやるから3%の人がやってくる。この率は業界では最高の数字だと思う」(大東社長)

公認会計士、柴山政行氏は試食券の効能について、次のように考えている。

1日約10万枚の配布で約3000人が来客!:試食券の配布は、1971年、6号店となる京都の三条への出店を機に始めた。これを境に来客が殺到し、王将の噂は口コミでどんどん広がることとなった。

1日約10万枚の配布で約3000人が来客!:試食券の配布は、1971年、6号店となる京都の三条への出店を機に始めた。これを境に来客が殺到し、王将の噂は口コミでどんどん広がることとなった。

「試食券には新規の客を呼び集める効果と、既存客が流出するのを防止する効果のふたつがあります。街で試食券をもらい、財布に入れている人はいつか、王将に行って餃子を食べようと思っている。客の頭のなかには王将のイメージができている。店にとっては新規客の獲得に結び付くことです。

一方、既存客の場合は試食券をもらうと、使わないともったいないという心理になる。王将の味はよくわかっているわけだから、もう一度、行こうという気になるのです。

一般に、ひとりの新規客を獲得する営業コストは既存客を呼ぶよりも5倍のコストがかかると言われています。『1対5の法則』です。また、5%の既存顧客が流出してしまうと、店の粗利は25%落ちるとも言われる。これが『5対25の法則』。

王将の試食券はふたつの法則を踏まえたもので、最小のコストで新規客を獲得し、既存客の流出を防いでいる。しかも餃子という王将のキラーコンテンツを無料にする。だから大きな効果が得られるのでしょう」

今の客はたいていのサービスには慣れている。試食券を配っても効果は薄いだろう。だが、王将は現在、「不況に強い」としてマスコミで取り上げられ、話題になっている。一般の人間も「一度は食べてみてもいい」と考えている。そこへ主力商品である餃子の試食券を配るわけだから効果的だ。

餃子の試食券は幼稚な作戦のようでいて、客の心理を読み込んだ施策だとわかる。

※すべて雑誌掲載当時

(石井雄司=撮影 ライヴ・アート=図版作成)