サントリーのサラリーマン時代、約10年、営業を担当していました。午前中に仕事をして夕方から練習に参加する毎日。そこでの経験は監督になってからずいぶんと役に立ちました。

ひとつはコミュニケーション。もともと僕は口数の多い方じゃなかったんですが、人と接するうちに自分が伝えたいことをうまく伝えられるようになったことは大きいですね。

僕の発言がマスコミに取り上げられることがありますが、それもこの時の経験が大きい。プロの監督になって一番変わったのが、この発言だと思います。企業の人事の一環ではなく人生をかけているわけですから。こう言ってはなんだけど、挑戦的な発言をして、なおかつ結果を出すからメディアも取り上げてくれるわけでしょう。黙ってコソーッと強くなっても誰も見てくれない。そういう時代ですよ。

それと時間の使い方ですか。ひとりで30店舗ぐらい担当する時代があったんですが、時間がないから、ひらたく全店に足を運ぶわけにはいかないわけですよ。たとえばトータルで年間3億円の売り上げがあったとします。目標を達成するためにどうするか。僕は30店舗の売り上げを見て、上位6店舗で70パーセントの売り上げがあるなら、そこに集中して売り上げを伸ばすことを考えました。当然、反発してくる店もあります。理不尽なことを言われて得意先でケンカして帰ったこともあります。でも、当時の上司は「そんなところに頭を下げる必要はない。気にするな。他で売ろう」と言ってくれたから、僕もまた頑張ろうと思ったんです。「なんでケンカなんかするんだ。あやまれ」とか言われたら、その上司ともケンカしたでしょうね(笑)。いずれにしろ、時間がない中で結果を求められるわけですから無駄なことをしている暇がない。だいたい、僕、努力が嫌いなんですよ。練習も嫌い。最低限の練習で最高の結果を出したいから工夫をするんです。

監督業も同じで、いかに自分のアイデアを実現させるかだと思う。そのためにいくつものやり方を模索しながら具現化していく。グラウンドでもこういうプレーをしないと目指すラグビーができない。それならこうしよう、ああしようと考えていくわけです。その積み重ねでチームは出来上がっていくんです。

去年はシーズン途中から戦術面でチームに迷いが生じたんです。どこで勝つんだという部分が曖昧になって、空中分解しそうな空気を孕んだ。それで、腹をくくったわけですよ。とにかく勝ちにこだわろうと。サントリー本来の”ボールが動くラグビー”ではないかもしれないけど、シンプルに勝ちにこだわった。そうすることでまたチームがひとつにまとまって最後はマイクロソフトカップでタイトルをとれたんです。

ただ、賛否両論ありました。フォワードでグリグリと押して時間をゆったりと使い、相手にラグビーをさせない。フェアじゃないという声も非常に多かった。そこまでして勝ちたいのかと。でも、サントリーとしては、悩みながらも、あの時はあれがベストだと思ったんです。数年先に振り返った時、いい経験だったと思いますよ。通らなければならなかった道だったと。だけど、最後は日本選手権で敗れるんです。結局、本当の実力では負けていたわけです。

※2008年10月にインタビュー。