ホット専用で年間通じて安定的な需要を創造

第二に、全社戦略の方向が定まった。それは、コカ・コーラやサントリーが目指している総合飲料メーカーの道とは異なる道だ。それらの会社は、膨大な数の清涼飲料用自動販売機を抱える。両社に対抗するには、自社自販機を各所に設置するだけでなく、自販機に並べるための多様な飲料を自社開発する必要がある。自販機を持つことは、総合飲料メーカーとなることと同義なのである。緑茶飲料に強みを持つ伊藤園も、総合飲料メーカーになる道はありえた。だが、この飲料化比率を社の目標に掲げたとき、当面は総合飲料メーカーの道ではなく、緑茶飲料分野に資源を徹底集中することになった。

第三に、飲料化促進のマーケティングが積極的に試みられた。同社の強みであるルートセールスによる営業を強化するだけでなく、緑茶飲料の新たな飲み方を提案し、緑茶の飲用シーンを広げる取り組みに注力した。いち早く500ミリリットルペットボトル入りの「お~いお茶」を発売した。その結果、緑茶の飲用シーンは拡大した。00年には、世界で初めてホット専用のペットボトル入り緑茶飲料を発売した。緑茶飲料を温めると通常の数倍の速さで酸化し味が劣化してしまう問題があったが、容器と中身の工夫によって、この壁を乗り越えていった。その結果、止渇を目的に夏を中心に飲用される飲料だった緑茶飲料は、嗜好性を強めた冬の定番商品としての性格が加わり、冬場でも売り上げを落とすことなく、年間を通じた安定的な需要の創造の手がかりを一つ得たのである。

S先行からP先行へ
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S先行からP先行へ

「お~いお茶」を、清涼飲料市場あるいは茶系飲料市場において「緑茶飲料」という切り口でポジショニングした。図に示しているが、細分化→ターゲティング→ポジショニングという手順ではなかったことに注意したい。ポジショニングが先行する。

「清涼飲料としての緑茶」という新しいポジションを支えたのは、繰り返し述べたように、飲料化比率のコンセプト&セオリーである。そのコンセプト&セオリーは、緑茶が、ウーロン茶やコーヒーや紅茶などと並ぶ、有力な清涼飲料であることを確信させるものであった。

ポジショニング先行で進むことで、緑茶飲料の長期的な市場成長を見据えた事業のマネジメントが可能になった。飲料の原料となる茶葉の生産力の増強と、緑茶飲料を啓蒙するコミュニケーションという両輪が駆動した。ポジショニング先行は、新たに状況を創造する試みだけにリスクは大きい。しかし、納得的なコンセプトとセオリーがあれば、力強くマーケティングの力を駆動させる力を持っている。

(平良 徹=図版作成)