第一は、独占禁止法の適用改善である。日本の化学メーカーが、国際競争力を強化するためには、各企業が得意分野に経営資源を集中することが大切であり、そのためには、事業ポートフォリオの入れ替えを可能にする企業間の事業統合が求められる。しかし、独禁法が国内的視点で運用されると、この事業統合を抑制するおそれがある。独禁法運用における国際的視点の確立は、喫緊の課題といえる。また、独禁法関連の事前審査のスピードアップも、必要であろう。

第二は、海外の事業環境とのイコールフッティングの確保である。これが実現しないと、そもそも国際競争力を云々すること自体が無意味になる。この点では、国際的に割高な法人税の軽減、国際的には常識の原料非課税(原料用ナフサ免税、温暖化対策税での原料非課税など)の維持、夜間着桟規制の緩和、漁業補償の軽減などが、重要なテーマとなる。

第三は、事業転換への支援である。例えば、二酸化炭素排出量削減等のためコンビナートで設備集約を行う場合に系統・配管等の付け替えに対する助成を行うこと、事業転換時に雇用面での支援策を施すこと、などが考えられる。第四は、地球温暖化防止に資する制度設計である。この点では、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点を盛り込んだ制度を導入すること、海外で省エネに貢献した場合にその二酸化炭素排出量削減実績をクレジットとして認定すること、などが大切である。なお、LCAとは、商品が環境に与える影響を、原・燃料の採取から製造加工・販売・消費を経て廃棄にいたるまでの全過程を視野に入れて評価する方法である。この考え方に立てば、化学製品を使用することによって、断熱、照明、包装、海洋防食、合成繊維、自動車軽量化、低温洗剤、エンジン効率、配管、風力発電、地域暖房、グリーンタイヤ、太陽光発電などの諸分野で、二酸化炭素(温室効果ガス)排出量を大幅に削減することができる。ICCA(国際化学工業協会協議会)が09年に発表した報告書は、「化学工業により可能となる温室効果ガス排出量削減は、同業界による排出量の2.1~2.6倍に相当し、2030年までの削減可能性は4.2~4.7倍に達する」、と結論づけている。

民の経営努力と官の制度的支援が結びつけば、化学産業は、日本経済の成長を牽引する次のリーディング・インダストリーとなりうるのである。

(平良 徹=図版作成)