ブランドであれテーマであれ、アタマの中を占めた想念は、私の身体から流れ出て、アメーバのようにパチパチと火花を散らしながら、さまざまな他のアイデアと接触する。私が環境と接点をもつのではなく、想念が自ら環境と接点をもつ。そのとき、その想念は、私のアタマで考えているかぎり接点をもたないようなアイデアとも、接点をもつに至る。

そこに、想定しないアイデアと接点が生まれ、想念とアイデアは互いに姿を変えながら、合一する。ここに、新しい価値が創発する。創発した価値が、社会にとって意味のあるものか否かは、さしあたりわからない。が、これまでにない新しい何かが生まれていることは確かである。

ビジネス上のインサイトや研究上のインサイトが誕生するというのは、こうしたプロセスをたどるのだろうと思う。私たちの日常の仕事は、どうしようもなく、断片化されている。ブランドマネジャーの仕事についても、取引相手の注文への対応、広告代理店との打ち合わせ、工場と試作品の検討会、開発部門との新機能確認等々、の仕事が次々にやってくる。

その中で、時間や仕事は細切れになり断片化される。人ごとのように、ブランドのことを(部門対応ごとに)切り刻んで考えてしまう。そこでは、「そもそも、ブランドを、どのような姿にもっていきたいのか」「人々の生活の中にどのような役割のモノとして位置づけたいのか」「自分は、何のためにこの仕事をしているのか」といった深くて重い課題は後回しにされる。

ブランドマネジャーは、生活者に向けて調査を行う。問題のブランドを巡って、生活者が自分でも気づかない「生活上のインサイト」を探り当てようとする。それがマーケティングの骨格になる。そのために、グループインタビューや観察やサーベイ調査を試みる。

だが、その種の調査は、ブランドマネジャーを含め社内メンバーにも向けられるべきだ。社内の担当者にも、同じように彼らが潜在的に秘めているはずのインサイトを(この場合、生活者インサイトではなく、ビジネスインサイトになるのだが)探り当てる試みがあって不思議ではない。

彼らとのデプスインタビュー、グループインタビュー、あるいはワークショップなどを通じて、彼らの想念を尋ね、そして彼らの心の中にあふれるような想念を育て上げたいものである。

※すべて雑誌掲載当時

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