「主婦の方は、売り場で野菜を選ぶときご自分で目利きして買われますよね。でもネットでの買い物は、手に取って選ぶことができない。誰よりも売り場と商品を知っている担当者が集荷することで信頼が高まるんです」(IT事業部・平沢篤史)

「ネットスーパー」と明記されたカゴを持ち、売り場で商品を真剣に吟味する担当者の姿はもう一つの効果を生んでいる。「注文した品をあんなふうに選んでくれているんだ」と感じる客は少なくないはず。効率を上げ、鮮度を担保し、さらには信頼感を高める一石三鳥の方法だ。

ピックアップされた商品が作業場に運ばれると、次は主婦のパートタイマーで構成される専任スタッフの出番だ。日用品、パン、青果、弁当・惣菜、精肉・鮮魚、冷凍食品などの順に商品が並ぶ作業場を回りながら、注文リストの品をカートに入れていく。1人分の注文品をすべて揃え、冷凍や冷蔵品については保冷容器に入れて梱包し、配送に回す。

客単価は実店舗の3倍にあたる約6300円。水や飲料、米など重くかさばる商品が多く、顧客の60~70%が30代から40代の主婦。専業主婦の割合が45%と高いのは意外な発見だったが、もう一つ興味深い事実がある。

「イトーヨーカ堂の店舗は山手線内に1店もないことをご存じですか。綾瀬店(足立区)と四つ木店(葛飾区)からこの空白地域へ配達できるようにしたので、最初はものすごい数の注文がくるだろうと予想していました。しかし、思ったほどではなかった。近所にイトーヨーカ堂がないという人は買いにくいのかもしれません。知っている店から届くという安心感がネットスーパー利用のベースになっているのでしょう」(青木)

ネット通販は商圏がない――とよく言われる。だが、こと、毎日の食卓に欠かせない基本的な食材を売るネットスーパーにおいてはその論理は当てはまらないようだ。アイワイネットでは、近所にイトーヨーカ堂の店舗があっても、そこで買い物をしていない客の利用がかなり多いというから、自分が目にする範囲に実店舗があるという安心感が利用を後押ししているのだろう。「顧客ロイヤルティの高い店と残念ながら低い店があって、それがそのままネットの売り上げに反映します」と青木。ヨーカ堂にはネット専門のコールセンターがなく、クレームは直接店舗が受け付けるなど、店舗ありきの運営を行っている。ネットスーパーの成功の鍵を握るのは店への信頼度だ。(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(坂本道浩、浮田輝雄、交泰、川島英嗣=撮影)