報告をじっと待っているようなリーダーも論外です。悪い情報も含めて部下が気軽に報告できる関係を築くには、上司のほうから話しかけないとダメなのです。このことは対個人の関係だけでなく、組織としての環境づくりにもあてはまります。失敗を安心して報告できる雰囲気を企業風土として根付かせるためには、まずトップが、「マイナス情報を経営に役立てたい」という方針を明確にすることで、オープンで風通しのいい組織に変えていかねばなりません。

部下の大失敗には、こう対処せよ
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部下の大失敗には、こう対処せよ

弊社の専務は毎朝8時に出社して、会社のそばの喫茶店でコーヒーを飲みながら、出社してくる社員たちを眺めています。そこでいつもと顔色が違う社員を見つけたら、あとで必ず声をかけに行く。職場の階が違ってもわざわざ出向いていくのです。もちろん部下がいつもと同じ様子でも、普段から積極的に声をかけます。彼はそうやって毎日200人以上の社員と言葉を交わしています。

こうしたコミュニケーションの積み重ねが、上司と部下の信頼関係をつくっていくのではないでしょうか。余談ですが弊社の飲み会は上司も部下も一緒になって羽目をはずしてしまうため、ご迷惑がかからないように屋形船で海上に出て大いに盛り上がるのです。そうした場ですら上司が率先してバカをやり、互いの胸襟を開くようにするのです。

成功を体験して「心を開くタイミング」を待て

成功を体験して「心を開くタイミング」を待て

部下に対して人材育成の方針を示すことも重要です。私は社員に常々「会社のために働くのではなく、自分を成長させるために働け」と言っています。世間では逆に会社の利益を最優先にしている企業が多いようですが、そうなると社員は上の顔色をうかがって失敗を恐れるようになります。これでは部下がマイナス情報を隠そうとするのも当然です。

企業の資産は、財務諸表を見ただけではわかりません。なぜなら、企業には人材という含み資産があるからです。人材ののびしろがいかにあるか。この含み資産の拡大なくしては企業の成長はありえない。上に立つ人はそのことを部下にしっかりと伝えて「自らの成長のためなのだから、失敗を恐れずに挑戦していいんだ」と思える環境をつくるべきなのです。

人材の成長には時間がかかります。それを踏まえて、焦らずに愛情を持って部下を見守ってやる。その姿勢が部下を育て、ひいては組織を強くすることにつながっていくのです。

(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)