多様な働き方が推進されているのに、台風の日の出社や通勤ラッシュがなくならないのはなぜ? 毎日同じ時間に出社するのが決まりだから、会社員はそれが当たり前だから……。でも、実はそれは企業や働く人々の思い込みかも。多様な働き方を阻んでいるモノの正体を、社会学者の田中俊之先生が解説します。
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台風でも出社時間を死守する人たち

台風の日のニュースでは、サラリーマンの方が朝9時に会社に着けるよう5時に家を出た、ホテルに前泊した、といった話がよく出てきます。なぜそこまでして始業時間を守ろうとするのか、私には不思議に思えてなりません。もちろん、どうしても外せない用事がある人もいるでしょうが、特に目的もなく「そういう決まりだから」と考えて出社しているとしたら、ちょっと問題があるように思います。

安全面を考えれば、出社時間をずらしたり、在宅で仕事をする方が合理的でしょう。急ぎの仕事がないならば、休むという選択肢もあるはずです。しかし、全員が同時刻に出社する会社で働いていれば、何があっても始業時間に行くのが当たり前という感覚になりがちです。台風の日も、「なぜこの時間に行く必要があるのか」とは考えず、決まりだから無理してでも出社する。仕事のためにではなく、決まりを守るために行くわけです。

毎日の通勤ラッシュも、昼休み時に店に大行列ができるのも、同じ理由からではないでしょうか。これらは、働く人たちが通勤やランチの時間帯を少しずつずらし合えば解消できるもの。なぜそれが実現しないかと言えば、その時間を守るのが決まりだと皆が思っているからです。

“9時17時”は決まりではない

労働基準法では、1日の労働時間は8時間、そのうち45分~1時間は休憩時間と決められています。これにのっとって9時に始業、12時~13時に昼休み、17時に終業という企業も多いことでしょう。しかし、この時間帯は法律で決められたものではありません。「決まり」ではなく、その企業の働き方がそういう仕組みになっているのです。

一人一人が異なる事情を抱えているはずなのに、大勢が同じ時間に一斉に同じ行動をとる。客観的に見れば、実に異様な光景です。毎日、決まった時間に会社にいることが本当に必要でしょうか。始業時間は、台風や自分の体調、さらには子育てや介護を無視してまで守るべきものでしょうか。仕事と自分らしい生活との両立に、無理が生まれるのも当然だろうと思います。