(2)相手の依存度を高める

弱い立場に置かれたら自分の弱いBATNAだけに注目して、相手のBATNAについては検討しないネゴシエーターがあまりにも多い。われわれはともすると、交渉が決裂したらどうなるかという点に関心を奪われて、自社がその取引に提供する独自の価値を見落とすきらいがある。

自分のBATNAが弱くても、相手のBATNAもまた弱ければ、さほど心配する必要はない。特定の会社と取引する以外によい代替案がなければ、それは問題ではあるが、その会社があなたの会社と取引する以外に選択肢がないとしたら、あなたのほうが強い。

幸いにも、現実にはほとんどのネゴシエーターが、何らかの価値あるものを相手に差し出すことができる。重要なのは、どのような独自の価値を差し出すか(差し出せるか)を見きわめることだ。この価値を高めることができればできるほど、より大きな利益を得ることができる。あなたの会社に、あるいはあなたの会社の製品やサービスや提案に相手がどれほど依存しているかを浮き彫りにできれば、あなたは弱い立場での交渉にともなう不利益を軽減することができる。

入札によって仕事を獲得する企業は、価格を下げることでしか仕事をとれない弱い立場にいるとよくぼやいている。全部で何社いるかわからない他の入札者と競争しなければならないのだから、これらの企業はたいてい、どうすればその仕事を獲得できるかという暗黙のシグナルを受け入れる。これらの企業が、(概してリスクの高い固定価格契約ではなく)コスト・プラス契約を要求しようものなら、顧客は帳簿を公開してコストを──したがってそれらの企業の取り分を──明らかにするよう要求してくるだろう。それはこれらの企業にとって最も応じたくない要求だ。

そのような状況で、あなたの立場を強くするにはどうすればよいのだろう。まず、その潜在顧客とたびたびコミュニケーションをとって、彼らのあらゆるニーズや関心や優先事項を把握するよう努めよう。信じがたいことだが、入札企業はえてして、特定の顧客が「典型的な」顧客とどう違うのかを見きわめる作業にほとんど時間をかけない。情報収集が不十分なのは、一つには入札方式が概して価格というただ一つの問題に重きを置きすぎたものになっているためだ。その場合、入札者はコストを下げることだけに精力を集中させがちだ。しかし、その潜在顧客がプロジェクトの完了時期や支援スタッフのレベルをとくに重視していることを発見したら、あなたは他の入札者より優位に立つことができる。

もう一つの方法は、価格以外の面で価値を付加できる方式を編み出すことだ。たとえば、1つではなく2つか3つのオファーを出すことを考えてみよう。一つのオファーは価格とサービスを低く抑え、もう一つは両方をいくぶん高くしてみてもよい。その顧客が本当にサービスを重視しているのなら、少し余分の費用を払えば一段上のサービスを受けられることを教えられたことに感謝するだろう。

より一般的に言うと、入札する企業は、顧客のさまざまなニーズを理解し、それらのニーズに応える独自の価値提案を生み出し、それらのニーズを満たす自社の能力を伝えることが決定的に重要だ。このアプローチは、単に巧みな入札戦略であるだけでなく、顧客が求めているものでもある。