米国におけるキャリア形成の多様性について研究する小西一禎さんは、共働きを続ける夫婦の強い意志を感じると指摘する。月22万円の保育料に加えてベビーシッターをも雇ってまで、なぜ彼らは共働きを続けるのか――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Paul Bradbury)

あらゆるサービスやツールを駆使

「共働きが主流な米国で、子持ちのカップルはどのように仕事と家事・育児を両立しているのか。日本と何が違うのか」

主夫・駐夫として渡米するにあたり、この疑問に強い関心を寄せていた。日本のケースと比べてみると、米国ならではの働き方や価値観、ライフスタイルがあり、子どもを育てながらも共働きしやすい環境が浮かび上がる。人種や住居地域、世代などにより社会的階層が細分化している米国で、一概には言えないが、デイケア(保育園)や在宅勤務などあらゆるサービスやツールを駆使しつつ、一時的にキャリア中断となっても、共働きを続けようという強い夫婦間の意志が垣間見えてくる。

男女平等の意識が日本よりも根付いている米国において、共働きはごく普通のこと。生活上、必要に迫られるケース、お互いのキャリアを追求するケースの違いこそあるものの、状況は同じだ。

製薬会社幹部職の米国人Aさん(50代後半女性)夫妻はいずれも医者で、同じ大学の医学部で出会った。それぞれ共通の目標を抱いていたためか「それぞれが自分の道を求めるのは当然であって、どちらかが仕事を辞めるなんて話をしたことは一切ない」と言い切る。

米国人看護師のBさん(50代前半女性)は、子育てが多忙になったころ、一時的に退職。週3日のパートタイム勤務に切り替えたが、数年でフルタイムに復帰した。「家にいるのは思ったよりも、つまらなかった。専業主婦になるつもりはなかった」と振り返る。

保育園は月22万円

子どもが生まれた後の対応で、Aさん、Bさん夫婦に共通しているのは、①仕事をセーブしたのは妻、②一方で、夫は子どもの送迎や料理など積極的に役割分担、③月2000ドル(約22万円)にも上るデイケアをはじめ、ベビーシッター、ナニーを惜しまず利用、④在宅勤務を増やすなど柔軟な働き方を模索、⑤食洗機、洗濯乾燥機が標準装備で、家事に時間をかけない――など。

車社会の米国では、同じ場所に集まらなくても、電話やスカイプなどのアプリを利用した遠隔会議の開催は何ら珍しくない。さらに、週数回の在宅勤務が広く認められている。子どもの発熱など突然のハプニングが起きても、上司にメール1通送れば、自宅からパソコンを使って働くことができる。とかく在宅勤務イコール後ろめたい印象がぬぐい切れない日本と異なり、立派な出勤扱いとなる。非難やマイナス査定を受けることは一切ない。「Working From Home」の略語「WFH」は、ごく一般的に使われているぐらいだ。

一方、日本と比較して、かなり割高なデイケアだが「時間をお金で買う」(Bさん)感覚で、背に腹は代えられないという。ベビーシッター、ナニーはプロフェッショナルな仕事として堂々と確立している。インターネットの登録サイトを通じて、筆者夫婦がたまにお願いしているシッターさんは、ニューヨーク市内の有名大学を卒業し、スペイン語講師の肩書も持つ聡明な女性。複数の家庭を掛け持ちしており、メインである子どもたちの相手だけでなく、頼んでもいない家の掃除をしてくれ、細かい働きぶりには目を見張るばかりだ。