幕末や明治時代の日本人は難しい英語を使いこなしていたという。いまより圧倒的に情報量の少ない中、どうやってマスターしたのか。俳優の鈴木亮平氏は「制約があったほうが知識を吸収しやすい。これは英語学習にもあてはまる」という――。(第2回)
俳優の鈴木亮平さん

東京外語大は、言語を研究するところ

【三宅義和(イーオン社長)】鈴木さんは留学から戻られて、大学は東京外国語大学の英語専攻に進まれたわけですが、受験にあたって英語は相当勉強されたのですか?

【鈴木亮平(俳優)】留学のおかげで英語は十分できていたので、正直な話、入試対策のようなものはしていません。むしろ、その1年のブランクの影響もあって苦手だった数学の底上げをするのが大変でした。

【三宅】大学ではどのような勉強をされたのですか?

【鈴木】ひとことでいうと言語研究です。誤解されることが多いのですが、外語大は英会話学校ではないのでしゃべることはそこまで重視されません。少なくとも当時の外語大は、言語を深く研究していくという、ある意味、オタク気質な人の集まりでした。でも僕も多少研究者気質なので、そこは合っていました。たとえば当時、認知言語学というものに興味をもったのですが、本当に重箱の隅をつつくようなことをやるんです。そうして得た言葉に対する知識も、いますごく演技に生きています。

日本人の演じる翻訳劇が不自然な理由

【三宅】具体的には、どういうことですか?

【鈴木】たとえば外国の演出家さんと舞台をさせてもらうときに「なぜ日本人は『間』を取るんだ? なぜ相手のセリフを聞いたらすぐ返さないんだ?」と言われることがありました。でもそれは英語と日本語の語順が違うからというのも理由の1つです。

英語だと動詞が文の最初の方に出てくるので、相手が文を言い終わる前に返答を用意できます。しかし、日本語は動詞が最後にくるので、それを聞いて、考えて、返事をするとなるとどうしても「間」が生まれます。ですから日本人が演じるシェークスピアの芝居などを観ていると、日本語なのに間だけ英語のリズムになっていたりして、少し不自然に聞こえることもあります。

【三宅】面白いですね。

【鈴木】あと、日本人の役者は「ため息芝居」というものをやってしまいがちです。セリフの言い終わりに「ハァ」という息を吐く音を足すんです。そうすると思慮深く聞こえることもあるのですが、不自然でもあるため多用しない方が良いとされている発声です。これは欧米にはないテクニックで、外国人の役者からするとなぜそんな話し方をするのか不思議だそうですが、一番の理由は日本語が必ず母音で終わる言語だからだと思います。

【三宅】なるほど!

【鈴木】こうした言語の特性が、日本人の伝統的な演技や、観客の好みにも大きく影響を与えている気がします。