女性の活躍支援やワーク・ライフ・バランス施策をいち早く進めてきた大和証券。19時前退社が徹底され、今では18:30にはほぼ全員が仕事を終えるという。働き方改革先進企業が、次に力を入れることとは――。中田誠司社長に聞いた。

“19時前退社”の驚くべき効果

【白河】大和証券グループは、2005年に「女性活躍支援」、2007年に「ワーク・ライフ・バランス」の取り組みをスタートしています。証券会社の100年来の働き方を変えたと言われる「19時前退社の徹底」は画期的です。これは金融業界だけでなく、産業界のなかで見てもかなり早いほうでしたね。

大和証券グループ本社 中田誠司社長(左)と少子化ジャーナリスト白河桃子さん(右)

【中田】企業のサステナビリティ(持続可能性)を考えると、競争力の源泉はやはり人材ですから、女性も男性も、老いも若きも生き生きと働く環境を整備することは重要です。当時から、大和証券は社員数の約4割が女性でしたから、まずは女性社員に生き生きと働いてもらえる環境を整備しようと「女性活躍支援」をスタートしました。その2年後に、営業店を中心に「19時前退社」を実施しています。

【白河】「働き方改革」が言われはじめる何年も前に、労働時間短縮を経営の課題とされていたわけですね。かつては“不夜城”のイメージがあった証券業界ですが、なぜこの取り組みを始めたのでしょう?

【中田】19時前に会社を出れば、一日の時間を自分でマネージできるということですよ。初めのうちは飲み会が増えたという話もありましたが、そんなに飲んでばかりもいられませんよ。そうすると、自己研鑽(けんさん)に時間を充てる社員が増えてきます。結果として、フィナンシャル・プランナーの最高位であるCFP資格の取得者が約800人になりました。金融業界では、圧倒的にナンバーワンの人数です。

イーラーニングなど自己研鑽の仕組みづくりにも力を入れています。当社は多摩に研修センターがあるのですが、土日の泊まりがけのものも含めてさまざまな研修が実施されています。女性の参加率を50%にしようという目標を設定していて、ベビーシッターさんに来てもらうなど、子どものいる社員も研修を受けやすい工夫をしています。

【白河】営業の方などは忙しくて、CFP資格はなかなか取得できないと聞きますけど、それだけ増えたことだけでも「19時前退社」の効果は大きいですね。

定着までに3年かかった

【中田】それこそ“不夜城”の時代は、勉強時間を捻出するのが大変でした。私より少し下の世代で証券アナリストの資格に合格した人たちは毎朝4時ぐらいに起きて、勉強してから会社に来ていました。それで夜は、終電近くまで残業することもあった。残業は上司の指示で決まるから、自分では何時に帰れるかはわからない。そんな働き方では、一日の時間が自分でマネージできるはずありません。

【白河】長年の習慣だから、社員の方たちは「19時前退社なんてできっこない」と思ったでしょうね。そういう会社は、今もたくさんあると思います。

【中田】支店長のなかには「どうせすぐ元に戻るよ」と高をくくって従わない者もいました。私は人事担当役員でしたが、当時の鈴木茂晴社長から19時以降に社員が残っている支店の支店長に「時間が守れないから次の異動候補に入っている」と注意するように言われました。最初はそれぐらいの強制力を働かせないと、慣れ親しんだ仕事のやり方は変えられません。ルールを守らなければ大変なことになると思うから、業務効率を上げて19時前に仕事が終わる仕組みを作る。定着するまで3年ほどかかりました。今は19時に支店を施錠しますから、18時半ごろには仕事を終えています。その後に入社した社員たちは、研修でもしっかり教えるし、初めから「うちはそういう会社」と思っていますね。入社2年目までは17時10分の定時に仕事を終えますから。