販売は商品ができる半年以上前からの地道な活動がモノを言う。床暖房の設計や工事要領もないところから手探りでカタログを作り、空調しかやったことのない営業マンが営業攻勢をかけた。

「理屈やなくて、態度で情熱を示さなあかんぞ」。陣頭指揮をとった佐々木は、なりふりかまわなかった。かけずり回って床暖房の工事業者を探し出し、ときにはワイシャツの腕をまくり床にへばりついて工程をビデオに収めた。

週一度は会議を開き、「どこの営業所は今週何台売った」などといったメールを部門長に送らせて販売の「見える化」を図って競争心をあおった。エアコンだけでも順調に売れている時期、放っておけば営業は楽なほうへと流れてしまい、新規参入の暖房は売れない。

「ときには、『暖房売らへんと評価せえへんで』ぐらいのきついジョークで尻を叩きました」(佐々木)

そんな厳しさを見せながらも、社員を突き放さないのがダイキン流だ。

「営業から帰ってきたら『今日はどこ回った? 何しゃべってきたんや?』と声を掛け、『そうか。じゃあ次はこういう提案してみたらどうや』と具体的にアドバイスする。自分らはおまえの後ろにちゃんとついているぞ、と安心させんと。我々も若い頃、そうやって教えてもらってここまできたんやから」

同社の離職率は、転職が普通の中国において極めて低いという。目先の給料に釣られて韓国系などに引き抜かれた社員も、後で、「多くの人がダイキンはすばらしかったと言ってくれる」(佐々木)。競争社会の中国で、上司が一から親身になって教える同社は稀有な存在なのだ。

開発も、「アルテルマ」をそのまま持ってくればよいという単純な話ではなかった。中国は欧州と電気事情や水質が異なるだけでなく、暖房に関する基準すらなく、基準をつくりながら開発していかなければならない。中国に暖房メーカーは複数あったが、部品の品質が均等ではなく、優れた部品を調達するのは並大抵なことではなかった。「予想以上に大変で何日も徹夜した」と上海工場の若手中国人技術者たちが苦笑するほど生みの苦しみを味わった。

そんな苦労の甲斐あってスタートから約半年後の09年8月に「EEHS」(床暖房+給湯)を、今年4月には中国独自で開発した「EEHS(AC)」(床暖房+給湯+空調)を発売した。後者は日本円で約80万円と高額だが、新しもの好きの超富裕層の間で大人気となった。(文中敬称略)

(小林禎弘、市村徳久、澁谷高晴=撮影)