海外のお客様を美術館に案内

ビジネスパーソンに教養は不可欠です。特にグローバルな場では、これが欠けていると本当の意味で相手の信頼を得て、長いビジネス関係を築くことはできません。たとえば海外に出張に出かけますと、ビジネスの相手と夕食を一緒にとります。これがヨーロッパでは3時間半。非常に長い。話題が豊富でないと場がもちません。しかもその会話で人間が値踏みされ、仕事に響きます。教養を身につけることは仕事の一部です。

ブリヂストンCEO 津谷正明氏

私は入社してすぐに配属された部署の上司から、2つのことを言われました。1つは英字新聞を読むこと、英語の文学を読むこと。今では毎朝の英字新聞と、就寝前の読書が私の習慣になっています。もう1つは、これが重要なんですが、色々なことに関心を持ちなさいということです。それも仕事の一部だと言われました。

今では大好きな絵画も、最初はさして興味がありませんでした。しかし海外のお客様をお迎えしたとき、私が通訳として美術館にお連れする機会が多く、知らないというわけにはいかなくなりました。ある日、どうやって美術の勉強をするのがいいのかと、ブリヂストン美術館の館長に伺ったことがあります。すると「自分がまず好きな絵を見つけて、作品について少し勉強する。そんなふうに広げていけばいい」とアドバイスされました。また「専門家になるわけではないのだから、無理したらダメだよ」とも言われました。まず自分が好きかどうかが大切で、興味がないものを無理して学ばなくていいと教わったのはありがたかったです。

ブリヂストン美術館にはセザンヌなどの印象派の絵画が多かったのでそこから入り、その後いろんな美術館に行くようになって絵画の趣味も広がりました。ヨーロッパに駐在したときには、北欧ルネッサンスなども好きになりました。日本に帰ってきてからは、日本の芸術に関心が向いています。東山魁夷の淡い色調の日本の風景画は大好きですし、最近は若冲や琳派が気に入っています。北斎の版画なども若い頃は大して興味はありませんでしたが、今はシンプルな構図で迫力のある絵が素晴らしいと思うようになりました。久留米の美術館で開催された特別展を観に行って好きになったのが、髙島野十郎の写実画です。こうした画集を部屋に置いて、たまに眺めています。

音楽に関しても絵と同様に、自分の好きなものから少しずつ勉強しました。私は音楽といえばビートルズ、ローリング・ストーンズから入っていて、基本ロックが好きなんです。レディー・ガガ、コールドプレイ、マルーン5などもよく聴いています。ロックのほかにジャズも好きで、イギリスやアメリカで人に会うと、そんな話をよくします。先日もある人と、ダイアナ・クラールというジャズ・ピアニスト&歌手のことがお互いに好きだということで意気投合しました。ところが私が「彼女の旦那もいいよね」と言ったら「えっ?」と言う。じつはダイアナの夫はイギリスの偉大なロックミュージシャン、「エルヴィス・コステロ」ですが、その人はそれを知らなかったので教えて差し上げました。