経営学の眼●モバイル・マーケティング「3つの効用」
早稲田大学商学学術院教授 恩蔵直人

「お金をかけずに売り上げ増」秘訣は“携帯チーム”にあり!
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「お金をかけずに売り上げ増」秘訣は“携帯チーム”にあり!

現在のような厳しい市況になると、企業は販促費などのコスト削減を迫られます。限られた予算の中でどう成果を出すか――。TVCMなどのマスを対象にした宣伝戦略から、携帯電話を使ったピンポイントの販促活動にシフトしたモスバーガーの取り組みは、有効な策の一つでしょう。

同社の手法は「モバイル・マーケティング」と呼ばれます。新しいビジネスモデルやマーケティング手法の多くは、欧米からの輸入でした。しかし、モバイル・マーケティングは日本発の手法であり、TSUTAYAやマクドナルドといった先行企業が模索しながら形づくってきたものです。この手法には3つの効果があります。

1つはタイムリーな情報発信ができること。例えば、お昼前の時間帯を見計らって顧客にハンバーガーの割引情報を配信すれば、昼食需要を取り込める確率が高くなるでしょう。

2つ目はタイムリーな取引。携帯電話を利用すれば、店舗へ足を運ばなくても、予約や決済を行うことが可能になります。

3つ目がマスカスタマイズ化です。TVCMでは、顧客に対して一律の情報しか配信できません。一方、モバイル・マーケティングでは、ITの力を利用して顧客の過去の購買行動を分析し、年齢に合った情報を配信したり、利用頻度の高い時間帯の前に配信することができるようになります。

モスバーガーの今後の課題は、さらなるモバイル会員の獲得にあります。多くの顧客情報が同社に蓄積されれば、顧客の購買行動をきめ細かく分類し、個々の嗜好により当てはまる情報配信ができるようになる。さらに、新聞やTVなどの他のメディアを巻き込んで、顧客を誘引する仕掛けをつくることも可能になるでしょう。

(増田安寿=撮影/コラム:早稲田大学商学学術院教授 恩蔵直人 構成=プレジデント編集部)