ビジネスがグローバル化するなかで、これまで主にドメスティックな要素だけに関心を奪われてきたわが国の人材マネジメントに、「グローバル」というキーワードが急速に注入されているのである。ここしばらく人材のグローバル化の議論はちらほら聞こえていたが、今年になって勢いづいた。私に言わせれば、やっと……という感覚である。

だが、同時にこのフィーバーのなかで、もう少し落ち着いて自分の企業なりに「人材グローバル化」の意味を整理し、人事上の戦略をたてて取りかかることが必要だと考えている。なぜならば、人材マネジメントはあくまでも企業戦略に沿った経営活動であり、戦略から見て意味のない人材グローバル化を行うことは貴重なコストを無駄にし、ひいてはコア人材の流出など、本来の企業の強みを削ぐ可能性があるからである。

多くの企業にとって、ビジネスの視点から見た「人材のグローバル化」とは、単純に言って、営業、生産、研究開発など、どういう機能であったとしても、国境を越えたビジネスができる人材の確保であろう。また、個人で見れば、その人材がどの程度国境を越えた仕事ができる能力があるかなのである。

“昇進への登竜門”から“専門職”となった海外赴任経験

その意味で、試しに、これをお読みの方々は自社について考えてみてほしい。「わが社で、国境を越えたビジネスができる人材は、どれだけいるだろうか?」。また、「信頼して、国境を越えた仕事を任せられる人材は誰なのだろうか?」。さらに、これを技術、営業、生産、研究開発など多方面で見る(ちなみに、後者の問いは、役員層で、という限定をつけるともっと面白いかもしれない)。

これらの問いに自信をもって答えられるようになるのが、人材のグローバル化なのである。ビジネスは自然にグローバル化したりしない。当たり前のことだが、仕事は人をつけないと進まないのである。ビジネスが国境を越えるとき、その仕事を任せるに足る人材を多く確保する、またはできるだけ多くの人材が任せてもある程度安心なレベルまで到達するようにする。それが人材のグローバル化なのである。そこで初めてビジネスは進む。