新しいサービスが進むフィンランド

自動車業界が「MaaS」(Mobility as a Service)に取り組んでいる。トヨタ自動車は現在を100年に1度の変革期と位置づけて、「モビリティのサービス化」を戦略として打ち出した。自動車はモノとして所有する時代から、サービスとして利用する時代に変わるというわけだ。

近年はカーシェアやライドシェアなど、新しいサービスが普及しつつある。自動車メーカーが危機感を持ち、サービス分野に関心を持つのは当然だろう。

ただし、MaaSを「モビリティのサービス化」ととらえるのは、正確ではない。カーシェアやライドシェアは、MaaSを構成する一要素にすぎない。それらのサービスに参入することを戦略の中心に据えていたら、時代の変化に取り残されてしまう可能性が大だ。

MaaSとは何か。それは利用者が多様なモビリティサービスを「1つのサービス」として自由にアクセスして利用する、新しい移動の概念である。モビリティサービスは自動車に限らない。電車、バス、タクシー、フェリー、航空、自転車、これから出てくる空飛ぶクルマ……。それらを統合し、プラットフォーム化することこそがMaaSの本質である。

MaaSには5つの段階がある。レベル0は、単独のモビリティサービス。カーシェアやライドシェアは新しいサービスではあるものの、もしほかのモビリティサービスと連携していなければ、MaaSとしては扱われない。

レベル1は、情報の統合だ。たとえば、ネットで経路検索をすれば、交通手段を問わず最適なルートを教えてくれる。日本では、「ナビタイム」がレベル1のサービスに該当する。

こうした情報サービスに予約や決済の機能が加わったものが、レベル2。さらに、各モビリティサービスがパッケージ化されて、専用の料金体系を持つ段階がレベル3だ。すでに世界ではMaaSが実施され始めており、フィンランドのMaaSグローバルが提供するアプリ「Whim」は、レベル3にまで達している。ヘルシンキ市内すべての公共交通機関にくわえて、カーシェアリング、レンタカー、タクシーを1つのサービスとして統合。スマホでルート検索を行い、アプリ上で予約と決済ができる。料金は、利用者がモノを買い取るのではなく、利用した期間に応じて料金を支払うサブスクリプションモデルを採用。月額499ユーロ(約6万3000円)のプランなら、タクシーは5キロ以内という条件で、前出のモビリティサービスが使い放題だ。登録ユーザーは6万人(2018年10月現在)。ヘルシンキの人口は約63万人なので、ほぼ1割の住民が利用している計算になる。

こうしたサービスがさらに地域政策と連携すると、レベル4になる。事故を減らす、過疎地域でお年寄りの足を確保するなどの目的で、官民連携で展開されるのが最終段階だ。