中学受験が失敗する原因の一つに、「コンサル父さん」の存在がある。論理的思考力が高く、ロジカルに受験指導をすることで、子供が成績不振になってしまうのだ。この教え方は、なぜダメなのか。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんが解説する――。
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「3カ月後までに偏差値を15上げてほしい」

長年家庭教師をしていると、最初の訪問でその後の展開がおおよそ予測できるようになる。6年生の春、ツバサくんの家を訪れたとき、父親から真っ先に言われたのが、「3カ月後までにこの子の偏差値を15上げてほしい。そのための学習プランを出してほしい」という無理難題。あぁ、またこの子も伸び悩むな……と悪い予感が走る。

「失礼ですが、お父さまのご職業は?」
「7年前に独立して、今はフリーでコンサルをしています」

悪い予感は確信に変わった。

近頃、中学受験に熱心な父親が増えている。その背景には「イクメン」をたたえ、「働き方改革」を推進する世の流れがあると感じている。父親が子どもの教育に関心を持つことは、とてもよいことだと思う。だが、ときに父親が介入することでうまくいかなくなるケースもある。

その最大の原因が、ビジネスと同じやり方で押し進めようとすることだ。なかでも要注意人物になりやすいのが、“コンサル父さん”なのだ。

「努力すればできる」という思い込み

都内に暮らすツバサくんは、小学2年生から大手進学塾に通っている。志望校は御三家の一つ、開成だ。父親の母校でもある。しかし、当のツバサくんの成績は中の下。父親が示す数字の通り、開成合格まであと「15」も偏差値が足りない。6年生のこの時期に、偏差値が15足りないということは、「そろそろ志望校を変えた方がいい」を意味する。

5年生の秋から家庭教師をつけ、同じく無理難題を突きつけては結果が出ずに、次から次へと家庭教師を変えてきたツバサくん。その表情は疲れ果てていた。

高額な授業料をいただいている以上、親御さんの希望には添わなくてはいけない。「3カ月後に偏差値を15上げる」だなんて机上の空論と思いつつも、何をどのくらいやるかプラン立てをしないと父親は納得しない。そこであえて、小学生の子供には絶対に実行不可能なプランを作ることになる。表向きは父親の希望通りの開成合格のためのプランだが、その中に偏差値5ポイントアップ、第二志望合格のための内容をまぎれ込ませるのが腕の見せどころだ。

普通の親ならそこで「こんなこと、小学生の子どもにできるわけがない」と気づくはずだ。だが、“コンサル父さん”は「人間は無理だと思ったことも、努力をすればできる」と思い込んでいる。