患者の命を救うのが医師の使命のはずだ

腑に落ちないし、理解もできない。「公立福生病院」(東京都福生市)の透析中止の判断である。

女性患者は44歳と若く、透析治療を受けながら人生を楽しむことができた。患者の命を救うのが医師の使命である。それにもかかわらず、公立福生病院は人工透析を中止した。透析の中止は死につながる。医師の裁量で患者の命を奪っていいのか。

「透析を止めたい」という女性患者の訴えを受け止め、不安定になっている彼女の精神状態をなぜ癒やしてあげなかったのか。1回の人工透析には3~4時間かかり、これを週に3~4回行う。拘束時間が長く、生活や仕事に大きく響く。塩分を控えるなど食事の制限が厳しく、脳血管障害などの合併症も起きる。

それでも専門医のもとで適切な透析治療を続けることができれば、命を永らえることは可能だ。沙鴎一歩は人工透析で40年以上生きた患者をよく知っている。

公立福生病院=東京都福生市(写真=時事通信フォト)

福生病院が取材に応じたのは、毎日のスクープから21日後

3月16日付のプレジデントオンラインでも「医師の判断で透析患者を殺していいのか」との見出しを掲げ、透析を中止した公立福生病院を厳しく追及した。

もともとこの問題は3月7日付の毎日新聞によって明らかにされたものだ。毎日新聞のスクープだった。ほかの新聞各紙も一斉に毎日新聞の特ダネ記事を追いかけ、その後も各メディアは続報や関連記事を伝えてきた。

公立福生病院は毎日新聞のスクープから21日目の3月28日になって初めて報道各社の取材に応じた。

ここでこの問題をおさらいしておこう。公立福生病院で昨年8月、腎臓病を患っていた44歳の女性患者の人工透析治療が中止され、一週間後に死亡した。東京都が医療法に基づいて立ち入り検査に乗り出し、日本透析医学会も調査に入った。

女性患者は末期の腎不全と診断されていた。夫や医師、看護師、ソーシャルワーカーが同席して「透析を止めると死に至る」と説明したが、女性の透析中止の意思は変わらなかった。最終的に透析治療を止めることを決め、女性は同意書に署名した。

透析を中止した女性は容体が悪化し、昨年8月14日に公立福生病院に入院。16日未明、看護師に「こんなに苦しいなら透析を再開したい。中止を撤回する」と話した。しかし、女性の容体が落ち着いたその日の昼ごろ、担当医が再開を望まない女性の意思を再確認したという。結局、女性は夕方に死亡した。