有数の「現金大国」である日本

新元号「令和」の発表とほぼ同じタイミングで、新紙幣への切り替えが発表された。1万円札に近代日本経済の父、渋沢栄一、5千円札には女子教育に力を注いだ津田梅子、千円札には細菌学者の北里柴三郎が選ばれ、5年後をメドに新しい「日本の顔」として流通が始まる。

2019年4月9日、発表された新紙幣のイメージ(写真=時事通信フォト)

一方で、政府は、「キャッシュレス・ビジョン」をまとめるなど、決済の非現金化に旗を振っている。10月に予定される消費税率の引き上げでもキャッシュレス決済を行った場合には5%分をポイント還元する計画が進んでいる。キャッシュレス化を進める一方で、新紙幣を新たに発行するというのは、一見矛盾するようにも感じるが、いったいこれは、どうしたことなのだろうか。

日本は有数の「現金大国」である。2018年末現在の「通貨流通高」、つまり家庭や企業、銀行などに出回っていた紙幣とコインの残高は115兆円にのぼる。名目国内総生産(GDP)は548兆円なので、その比率は21%に達する。国際的にもダントツの高さだ。

比較が可能な2015年のデータでは、日本は19%で、5~10%が多い先進主要国と比べて突出している。

なぜ高齢者は「タンス預金」という危険を冒すのか

現金比率が高いのは日本の治安が良いからだとしばしば語られる。強盗や窃盗が少ないから安心して現金を持ち歩いたり、自宅に置いておいたりする、というわけである。

確かにそれも一因かもしれないが、実際は、低金利と銀行不信が主因ではないか。低金利によって銀行に預けても金利がほとんど付かないから、預金するインセンティブがなくなって久しい。

一方、1990年代後半の銀行破綻の記憶を持つ高齢者層がまだまだ多く、銀行に預金を置いておく不安をいまだに何となく感じているのではないか。銀行に預けるリスクに見合ったリターン(金利)がないのだから、「タンス預金」に回すのは合理的な選択ともいえる。

もちろん、安全性を考えれば、現金でのやり取りが危険極まりないのは分かりきっている。高齢者が「オレオレ詐欺」に引っかかり、多額の現金を自宅に来た見も知らない人物に渡してしまうのも、現金でのやり取りが普通だからだ。

一定金額以上は小切手や振り込みで決済するのが当たり前だった欧米諸国では、こうした犯罪は考えにくい。