定年まで会社を勤めあげれば、多くの人は退職金を手にする。突然、大金を手にした人は、金融機関にとって格好のターゲットだ。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は「電話などでの営業攻勢に負けて、痛い目に遭う人が少なくありません」という。退職金を狙う「ハゲタカ」バンクの生態とは――(前編、全2回)

投資ビギナーも多い定年退職者の「札束」に群がる人々

3、4月は、年度区切りということで、定年退職者が多く出る時期でもある。そのためこの時期、お金のやりくりを含めた「定年退職後の生活」に関する相談依頼が増える。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/FrankRamspott)

現在、定年年齢で多いのは60歳だが、2013年4月1日に改正された高齢者雇用安定法により、希望する正社員に対しては65歳まで就労の機会を与えなければならないとされており、再雇用制度や勤務延長制度などを利用して、60歳以降も働き続ける人も少なくない。

ただ、再雇用制度などを利用する場合、いったん定年時に退職して、その後、契約・嘱託社員として継続して働くことになるため、定年時に退職金が支払われる。

となると、数千万円単位のまとまったお金を手にして、これをどう運用したらよいのか悩む定年退職者が続出。そして金融機関ではこれら退職金マネーに狙いを定めて、一斉に営業をかけてくる。

今回は、ほぼ投資ビギナーであろう定年退職者の方々が、退職金を運用する場合に金融機関から勧められる具体的な金融商品の事例をご紹介しよう。

定年退職者が金融機関から勧められる金融商品

まず、退職金が銀行口座に振り込まれて、そのままにしておくと、たいていの場合、銀行から電話がかかってくる。

「ご退職おめでとうございます。長年のお勤めご苦労さまでございました」などのねぎらいの言葉から始まり、「現在、お口座にまとまった資金をお預けいただいているようですが、今後の運用について何かお考えですか?」とか「一度、支店長ともども担当者○○が、ごあいさつに伺いたいのですが」などと、訪問を希望する旨を丁寧に告げられる。

先に、商品のパンフレットなどを郵送で送りつけ、その後に電話がかかってきて、「資料はご覧いただけましたでしょうか? 詳しいご説明をさせていただきたいのですが、明日もしくは明後日のご都合は?」などと、面談ありきで直近の日程を指定してくるケースもある。

いきなり訪問されるのは……と尻込みしている向きには、「実は、今度、定年退職者さま向けに、資産運用セミナーが開催される予定です。最近のトレンドを踏まえた老後資金設計もご紹介します。ご夫婦でご参加いただけませんか?」など、セミナーに誘導するパターンもある。

銀行のほか、証券会社や保険会社、不動産会社など、金融機関はさまざまだが、おおむねこんな感じだろう。

「まあ、どうせ退職金の運用については、考えなくてはと思っていたところだし、セミナーくらいなら」と軽い気持ちで約束すると、さあ、ここからが大変だ。

そこで、定年退職者した人々が紹介される金融商品を具体的にみていこう。