もしも、サラリーマンが団体で無人島に漂着したら……。荻原浩さんは、そんな物語をずっと温めていたのだという。

「サバイバル生活で、会社のヒエラルキーや秩序が徐々に崩れていくさまを描くことができれば、面白いだろうな、と」

<strong>荻原 浩</strong>●おぎわら・ひろし 1956年生まれ。成城大学経済学部卒。広告会社を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞、2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞。実は南国の島を訪れた経験はないという。「僕自身はからっぽに近い。だからいつも自分の世界にはないテーマを取り上げるんです」。
荻原 浩●おぎわら・ひろし 1956年生まれ。成城大学経済学部卒。広告会社を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞、2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞。実は南国の島を訪れた経験はないという。「僕自身はからっぽに近い。だからいつも自分の世界にはないテーマを取り上げるんです」。

主人公はリゾート開発会社の若手社員・塚本賢司。トンガでの接待出張中に飛行機事故で遭難。スポンサー企業の御曹司にこびへつらう上司、無人島でもゴルフの素振りをする脳天気な御曹司、新婚旅行中なのにほかの男に色目をつかう新妻、ぼけた祖父を気遣う小学生……。塚本とともに無人島に流れ着いた個性的な9人と犬一匹の生活が、ユーモアあふれる筆致で進む。

けれども、楽しいだけの小説ではない。荻原さんはいう。

「生きるためにどこまでできるか。突き詰めていきました」

飲み水が底をつき、塚本たちは、自生するヤシの実の果汁を飲もうとする。だが、道具がない。割り方もわからない。力任せに石に叩きつけると、砕けてしまい、中身がこぼれる……。

川崎駅前で実際にヤシの実を買い、石を使って何度か試してみた荻原さんは、「コツさえわかれば簡単なのですが、はじめは難しかった」と語る。水を飲むだけで一苦労なのである。

「いまは、スイッチさえ押せば、何でも手に入る時代です。食べ物、明かり、熱、人との会話……。気持ち悪いくらい便利な社会。そんな日常からかけ離れた不便の極致に身を置く現代の人間の姿を描きたかった」

動物を狩り、とまどいながら解体する描写も生々しい。血の臭いと肉を裂く感触が伝わってくるようだ。

「ぼく自身、ニワトリを潰した経験もないのですが」と続ける。

「万が一のとき、生きるためには、ペットでも食べなければならない。動物も命の重さは一緒といいますが、その前提には豊かさがあってのこと。それを忘れているのではないか」

タイトルの「オイアウエ」は、喜怒哀楽全部を表すトンガ語で、「うわ」「えっ」「おお」などと訳すことができるらしい。

会社の肩書は通用しない。道具もない。一人ではいかんともしがたい不便の極致で、諍いを起こしつつ関係を築く。そんな状況で発する言葉に必要なのは建前ではなく、ストレートな喜怒哀楽なのかもしれない。

「嫌みなヤツも、役立たずでも、何十年か生きただけの経験や知識を持っている。きれいごとではなく、人間って極限になったらイヤイヤながらも協力し、なんとか生き抜こうとするのではないかと思うんです」