会計と非会計の数字をバランスよく活用

マクドナルドというと、牛肉やポテトなどの食材を世界中から最も安い価格で調達したり、厨房機器や什器を規格化して低コストで導入するなど、数字の面での効率性を追い求める「会計的な会社」というイメージが強かった。しかし、2004年に原田泳幸氏が同社の最高経営責任者(CEO)に就いてからは、積極的にリスクをとっていく「非会計の会社」としての顔をのぞかせ始めた。

その象徴が相次いで行われている「新規参入」だ。これまで手をつけてこなかった未知の分野にチャレンジしようとすると、事前調査や商品開発などでどうしても時間やお金がかかる。しかも、参入後の効果がどれだけ得られるのか予測しづらい。数字の面での効率を追求するのなら、「新規参入などしないほうがいい」ということになる。

たとえば、2007年1月12日に発売された「メガマック」。ハンバーグが4枚も入っていて、見るからに高カロリー、高脂肪とわかる。メタボリックシンドロームの危険性が指摘され、太りすぎに関心が高まっているだけに、「なぜ、この時期に……。時代の流れに逆行しているのではないか」と感じた人も多かったはずである。

いざ蓋を開けてみると、発売から4日間で計画の2倍に当たる332万食を売り上げ、当初2月4日までの予定だった販売期間を1カ月ほど延長した。その後も4回に分けて期間限定で再発売し、07年6月中間期における既存店ベースでの売上高が前年同期比15.6%増になったことに大きく貢献した。しかし、単にリスクを冒してメガマックを投入したわけではない。実はメガマックにはリスクヘッジが、しっかりかけられていたのだ。

「7月20日~8月9日までの21日間」というように具体的な日数を限定することで、ブランディング効果を得ていたのである。「いましか食べられない」という価値を加えることで、お客の枯渇感を呼び起こし、「売り上げ=客数×客単価」の数式の解を最大値へと導いていったのだ。

もちろん、原田氏は会計的な数字を軽視しているわけではない。6月20日から、都心部の店で価格を引き上げ、一部地方の店では価格を下げて、単品では「一物=三価」、セットでは「一物=五価」からなる地域別価格制度を外食業界で初めて導入した。人件費や店舗の賃料が場所によって大きく変わるためであるが、会計的に理にかなった数字の使い方といえる。

2007年8月29日からは、首都圏を中心に「マックカフェ」をスタートさせた。この事業からは、不採算だった小型店の収益率改善という会計的な分野での改善とともに、カフェ業態への新規参入といった非会計的な分野でのリスクテークという両面での大胆な戦略を読み取ることができる。

原田氏は、会計と非会計の数字をバランスよく活用する、新しいタイプの数字王といえそうだ。

(伊藤博之=構成 坂本政十賜=撮影)