顧客を知る質問をしなければ提案はできない。提案とはその顧客にとってのメリットを提示することであり、単なる商品の説明ではないのだ。

最後は「活動」である。営業活動は量と質に分けられる。効率的な営業を推進するあまり営業マン1人当たりの活動が減っている会社もある。効率的という言葉を「少なく動く」の意と勘違いしてはいけない。

量というのは「顧客と接点を持っている」時間と件数である。例えば移動に2時間かけて顧客とは5分しか話していないなら「実際営業時間」は5分でしかない。この時間をいかに広げ、件数を増やしていくかが重要なのだ。

質は新規顧客を獲得するためにいかに「種まき」をしているかである。営業の内容を見ると「刈り取り(契約)」ばかりに気を取られている営業マンが非常に多い。前は売れていたのに売れなくなってきた営業マンは、刈り取りに必死で、その間の種まきを怠ったつけが回ってきているのだ。そうならないために本来なら上司が目を光らせて、新規顧客を開拓し顧客との関係を強化する営業活動をどれくらい行っているかを見ておくべきなのだ。

売れない営業マンに対してはこれら3つの要因のうちどれが該当するのか上司が判断して、課題を一緒に解決していく。そもそもマネジャーに人事権はない。辞めさせるべきかを考えるのではなく、与えられた人材でいかにパフォーマンスを上げるかを考えることが重要である。

新卒の場合は営業マンとして「一人前」の定義をつくってあげること。商品知識をどこまで覚えたら一人前なのか、どういう提案ができるようになれば一人前なのか、ヒアリングはどこまで聞ければ一人前なのか。「一人前」のレベルを明確にして、そこに到達するための育成をすべきである。

私は冒頭、「売れない部下を辞めさせるべきか?」という質問をよく受けると述べた。だがその上司に「その部下は日頃どういう活動をしているのか」と聞いて答えられるマネジャーは多くない。「種まきに時間をどれくらい使っているのか」「将来的に実を結びそうな顧客をどれくらい持っているのか」と尋ねても全く答えられない。

つまり結果しか見ていないのである。ただ営業成績が悪いというだけで「あいつは駄目だ」というレッテルを張っている。営業は3カ月前や半年前のアクション、業界によっては1年前のアクションが実を結び今月の受注になるということもある。しかし結果が出るまで何も知らない上司があまりにも多すぎる。

上司が部下である営業マンのアクションを把握していれば、売れなくなる前に改善させることができる。辞めさせるのではなく「育てる」というスタンスで上司が部下を見ることが何より重要なのである。

(構成=登上幹千)