ところが、われわれの仕事の仕方は、まずお客さんを足で探し回りニーズを発掘、それをメーカーに繋いで製品を供給してもらうというもの。あるいは、メーカー側が現在どういう製品を売りたい状況にあるのか把握して、その買い手を探してくる。

こういう能動的なビジネスの仕方が、Aさんには、なかなか理解できなかったのです。私は繰り返し説明し続けました。

「君のやり方では成約は伸びないよ。1カ月ごとの目標を定めて、もし達成できなかったら、どこに問題点があるのかと絶えず探り出すようにしながら仕事に取
り組まなければ……」

そして、ある日。採用後まだ1年も経たない時期です。Aさんが突然、「こんなにうるさく言われるなら、俺はもう辞める」と、家に帰ってしまったのです。

ところが、翌日、やけに朝早く彼が出社してきて、こう言いました。「あのあと考えてみたのだが、おまえの言うことをベースにして、もう一度頑張ってみたい」と。その後、彼は徐々に業績をアップさせ、拡販に貢献してくれました。

これも、粘り強くコミュニケーションに努めたからこそだと思います。私は自分の考えを諄々と説き続けました。が、頭ごなしに指図することはしませんでした。相手の立場も尊重するよう努めたのです。それがコミュニケーションのベースだと考えたからです。ただし、基本的な部分で迎合することはしませんでした。

私は指導員やアメリカでの経験を通じて学んだことがあります。自分の教えを受け入れてもらうには、相手の話にも耳を傾けなければ、ということです。

現在も、その姿勢を失わぬよう心がけています。従業員との直接対話を、年間50回ほど各職場を訪ねる形で積み重ねていますが、その場でも、できるかぎりみんなの意見を聞くように努めているのです。私としては、自分が一方的に喋るほうがラクですが、会社の方針や自分の考え方を理解してもらうには、まず、相手の話を聞くことだと思っています。

こういったことは、なかなか自然に身につくものではありません。

「人は育つのではなく、育てるのだ」

これが人材育成に関する私の考え方です。この考えに沿って、わが社では現在、人材育成システムのさらなる拡充を図っています。たとえば、指導員制度の充実。4月1日に入社する新人たちに備え、毎年3月、職場ごとに指導員を決めますが、その指導員への研修も充実させています。指導員を一堂に集めての研修。私も出席して、冒頭で社長として、「人を指導するには何が大切か」を語っています。

(小山唯史=構成 的野弘路=撮影)