「営業先にとってのメリットを語れない」
4.想定問答マニュアル営業マン

売り手が買い手と同じ方向を向くには、買い手のことをよく知らなければならない。現実はどうか。

「今の営業はマニュアル化しすぎ」と話すのは米国系機械メーカー、日本ムーグで新規サプライヤー開拓を担う小南卓氏。自らバイヤー塾を開く理論派だ。

「営業マンは想定質問の答えを準備しておくだけ。臨機応変にできないので、顧客の反応を見ても次の対応ができない。しかも、どの営業マンも話すことは判で押したように同じ。顧客にとっての付加価値も示せなければ、差別化もできない。これでは営業していないのも同じです」

総合電機メーカー資材部のC氏も、お仕着せの商品知識しか持たないマニュアル営業マンの弱点をこう指摘する。

「商品の性能しか売り込みができないマニュアル営業は、バイヤーから“ここは他社製品より劣る”と突っ込まれ、性能で負けてしまうと何もできない。切り返して、“でも、この面ではメリットがあります”と売り込む知恵がないのです」

では、どうすれば知恵が湧くのか。携帯電話用部品を扱う大手電線メーカー調達部のD氏はこんな例をあげる。

「変化の激しい携帯の世界では値段が1、2円下がるより、リードタイム半減のほうがメリットがあり、バイヤーもそれに気づいていないかもしれない。あるいは、性能は70点で他社より劣ってもコストが半減するなら、バイヤーは逆に技術部門を説得するかもしれない。別のアピールポイントを考え、代替案をぶつける。それには相手がどの数字を欲するか、下調べで相手を知ることが不可欠です」

精密機器メーカーのB氏は、提案に必要なのは「ストーリー立て」だと話す。

「値段は高くても、これを使えば全体でこう変わりますよと。コストだけだと狭い話ですが、会社全体に広げてメリットを語られると一つのストーリーになり、聞くほうもワクワクします。重要なのはストーリーに具体的な数字を入れること。共通の理解が得られ、共感が増します」

対照的なのは“ご用聞き”営業だ。

「下調べもせず、何か(注文)ないですかとやってくる」(日本ムーグ・小南氏)

「うちが何をつくっているかも知らずに来る。ホームページくらい見てほしい」(古河産機システムズ・渡邉氏)

単なるご用聞きには用はない。

(松田健一=撮影)