だからこそ家臣や部下は、あの手この手で上から権力やその源泉を奪い取ろうとする、と『韓非子』は指摘する。そして手にした権限をフル活用して、さらなる権力奪取を目論んでいく。

・権力は部下に貸し与えてはならない。少しくらいならと委譲すれば、部下はそれを百倍にして使ってしまう。(内儲説下篇)

現代の企業においても、親から会社を継いだ若い二代目社長と古参重役とが、権限の綱引きを繰り返し、内紛に発展してしまうことが往々にしてある。お互い権力あっての権勢や、自分の羽振りの良さという現状は承知しているので、譲れない戦いが始まってしまうのだ。

ではこんな場合、権力の源泉をうまくガードして離さなければ、自分の地位は基本的に安泰といえるのだろうか。実は、そうとも言えないところにこの問題の難しさはある。『韓非子』には、こんな指摘がある。

・トップと部下は利害を異にするから、部下の忠誠に期待をかけてはならない。部下の利益が増えれば、それだけトップの利益は減るのである。だから腹黒い部下は、敵軍を呼びいれて国内のライバルを始末し、国外の問題に注意を引きつけてトップの判断をまどわそうとする。私利私欲を追求するだけで、国の害など念頭に置かない。(内儲説下篇)

現代でいえば、権力闘争に負けた重役が、ライバル会社や投資銀行を引きこんで、M&Aを画策、その後に自分が権力を握ろうとする構図にそっくりだ。

権力とは、もともと身内や味方だった人間でも、いつしか最悪の敵に変えてしまう魔物のような面がある。だからこそ、その取り扱いには十分熟達しておく必要があるのだ。