東京大学医学部附属病院の経営が悪化している。2017年度は17億円の黒字だったが、これは国からの運営交付金や補助金で“化粧”した結果で、実際には40億円の赤字だった。赤字の原因はなにか。東大病院の人件費率は医業収益の50%で、現場の医師たちは安月給でこき使われている。赤字の根本原因は病院経営を軽視する教授たちにある――。

「化粧」がなければ40億円の赤字

東大病院が公表する2017年度の事業収入は593億円で、17億円の黒字だが、病院の本来の売り上げである医業収入は440億円にすぎない。残りは国からの運営費交付金39億円と補助金4.6億円、さらに資産見返負債戻入14億円だ。これは国立大学時代の名残で存在する会計上の処理で、減価償却に見合う収益を同時に計上するものだ。補助金や会計上の「化粧」がなければ、東大病院は40億円の赤字である。

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では、東大病院の経営の、どこにコストがかかっているのだろう。病院経営のコストといえば、通常は人件費だ。小児科や産科など患者数が少ない「不採算分野」を担当せざるを得ない地方の公立病院の中には、人件費率が80%を超える病院も珍しくない。

ところが、東大病院の人件費率は低い。医業収益に占める割合は50%だ。医師に関しては、2016年度の初期ならびに後期研修医を除く人件費が20億962万円だった。同年度の常勤医師(医員を含む、初期・後期研修医を除く)は730人だから、一人あたりの平均年収は275万円となる。医員が全て無給として、助教以上の563人に限っても、平均年収は357万円となる。

専門病院に歯が立たなくなっている

ちなみに、勤務医の平均年収は1,696万円だ。東大病院の医師の平均年収を、その半額の800万円として計算すれば、少なく見積もっても医師の人件費として25億円を要する。つまり、東大病院の経営は、彼らが公開する財務諸表よりはるかに悪い。

なぜ、東大病院の経営は、こんなに悪いのだろうか。それは、東大病院に患者が来ないからだ。『手術数でわかるいい病院2018』(朝日新聞出版)によると、2016年度に実施した東大病院の胃がんの手術件数は122件で、関東地方で17位だ。トップのがん研有明病院(541件)の23%にすぎない。常勤医はそれぞれ12人と7人だから、医師一人あたりの年間手術数は10件と77件になる。実に7.7倍の差だ。

これはがん治療に限った話ではない。循環器領域でも同様だ。東大病院の心臓手術件数は234件で関東地方で25位だ。トップは榊原記念病院で1,005件である。常勤医の数は6人と7人。医師一人あたりの年間手術数は39件と144件になる。実に3.7倍の差だ。

この数字の持つ意味は大きい。これは患者あるいは紹介医の判断の積み重ねだからだ。かつて大学病院が担ってきた高度専門医療の領域において、東大病院は専門病院に歯が立たなくなっていることを意味する。