雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第9位の『キングダム』。解説者は立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長と早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授――。

もしも羌瘣が、営業職だったら

【入山】以前、友人の起業家から「久々に会って話したい」と連絡がきました。それで「ビジネス上の相談かな?」と思いながら会ってみると、実際には2時間ずっと『キングダム』の話をして解散になったことがあります(笑)。そのくらい、『キングダム』は日本中の起業家が熱狂して読んでいるマンガなんです。

【出口】結局、ご友人の相談内容は何だったのでしょうか?

【入山】彼の会社が少し経った後に大手企業に売却されていた。もしかしたら、そのことだったのかも……。

彼は、主人公の信が率いる飛信隊の副長・羌瘣(きょうかい)みたいな営業が欲しいと言っていました。

【出口】僕も羌瘣のファンです。

【入山】えっ、出口さんもですか! 確かに羌瘣なら上司の指示がなくても、自分の頭で考えて動き、仕事をたくさん取ってきてくれるでしょう。そうやって登場キャラクター1人をとっても、話が尽きずに盛り上がる。私が日頃お会いする経営者・ベンチャー起業家の多くが『キングダム』を読んでいるから、もはや共通言語ですね。出口さんはいつ頃から読まれているのですか?

【出口】ライフネット生命保険を創業した2006年からです。ちょうど『キングダム』の連載がはじまった頃だと記憶しています。書店で『ヤングジャンプ』をパラパラめくっていて発見し、連載を読み出しました。

【入山】出口さん、そもそも『ヤングジャンプ』をパラパラめくるのですね……。

【出口】ええ、もちろんです。『キングダム』は中国紀元前の春秋戦国時代が舞台。僕は歴史が好きなのですが、秦の始皇帝は特に好きな人物。その始皇帝・嬴政の中華統一をエンタメに昇華している。「これは面白いマンガだな」と。

【入山】始皇帝が好きというのはなぜでしょう?

【出口】始皇帝は新しい社会の構造を考え出した「グランドデザイナー」だからです。彼は、世界に先駆けて中央集権国家を確立して、法治主義・文書行政のもとで官僚を使いこなす。エリート支配を徹底しました。今の中国にしても、始皇帝のグランドデザインの延長線上にあると僕は思っています。