ソニーは10年度の世界テレビ販売台数を2500万台と計画しており、このW杯を起爆剤とし、うち1割の250万台を3D対応機種と見込んでいる。

たしかに他のメーカーの3Dテレビも恩恵を受けることになる。だが3Dテレビ全体の市場が盛り上がらないと話にならない、と上田マネジャーは気にしない。テレビだけでなく、3D映像の撮影・編集ビジネスにも期待する。

「うちの強みはコンテンツを持っていることです。撮りから出しまで、パッケージビジネスができます」

また協賛メリットとして、「ブランド力」「社会貢献」がある。貴重なW杯チケットの優先購入権などもある。

「サッカーはソニー」のブランドイメージは間違いなく、各地に浸透しつつある。14年W杯が「BRICs」諸国のひとつブラジル。「新興国のマーケット拡大のチャンスです」とは斉藤担当部長。

唐突ながら、FIFAパートナーはいい買い物だったのかどうか。斉藤担当部長は苦笑いを浮かべる。

「率直なところ、この南ア大会が終わらないとわかりません」

ではW杯の市場はこれからどうなるのか。市場規模を巨大龍馬像に例えると。

「将来は倍くらいのサイズになるんじゃないんですか。(協賛金が)下がることはないでしょう」

FIFAのW杯ビジネスを陰で支える大手広告代理店が「電通」である。FIFAとソニーとの仲介役も務める。

膨張するW杯市場には「リーマン・ショック」や景気低迷の影響はなかったのか。電通のスポーツ局サッカー事業室の上田浩一・サッカー業務一部長は言う。

「権利ビジネスですから、(FIFAには)ないでしょう。リーマン・ショックのときには契約が終わっていましたから」

協賛金は“もう限界”と言われながら高騰している。金額は妥当なのか。

「コンテンツ力でいえばサッカーは秀逸です。スポンサーの数も金額も目標に到達しているということは、それだけ投資する価値があるということでしょう」

そうなのだ。市場原理なのだ。FIFAの最上位スポンサーの日本企業の数を見ると、02年日韓大会が16社のうち4社、06年ドイツ大会が15社のうち2社となり、南ア、ブラジル大会では6社のうちソニーだけとなった。時代だろう、FIFAの協賛ランクで2番目の「W杯スポンサー」に中国やインドの企業が名を連ねた。上田部長は続ける。

「ワールドワイドな企業がそれぞれの戦略の中でスポンサーをしている。(日本企業が)このまま沈んでいくことはないと思います。それほど弱くない」

もはや日本企業の多寡を論じる時代ではなかろう。グローバル化とともに、電通も海外に積極展開していく。

※すべて雑誌掲載当時

(写真=小原孝博、尾関祐士)