雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第7位の『一勝九敗』。解説者はパナソニックの樋口泰行代表取締役専務執行役員――。

平易な言葉で綴る、希代の経営者の考え

私が柳井正さんとお付き合いをさせていただくようになったのは、日本ヒューレット・パッカードの社長時代です。その後、ダイエーの社長として同社の再建を進める際には、ジーユー1号店を出店していただくなど、多くのご指導、ご支援を頂戴しました。現在も年1~2回、当社の津賀一宏社長とともにお会いしています。

パナソニック 代表取締役専務執行役員 樋口泰行氏

その柳井さんのご著書から私は、数え切れないくらいの感銘や勇気、そして示唆をいただきました。今回総合ランキング7位に入った『一勝九敗』、そしてその続編である『成功は一日で捨て去れ』には、柳井さんの経営者としての考えが深く描かれています。実体験に基づいた内容は迫力に満ち、しかもそれが平易な言葉で綴られており、スーッと心のなかに入ってきます。

たとえば「成功」に対する戒めの言葉で、「成功するということは、保守的になるということだ。今のままでいいと思うようになってしまう。成功したと思うこと、それがすなわちマンネリと保守化、形式化、慢心を生む源だ」があります。多くのビジネスパーソンにとって耳の痛い内容でしょう。しかし、リスクを一身に背負いながら経営の最前線に立つ柳井さんにそういわれると、自ずと納得してしまいます。

柳井さんがご指摘されているように、いま多くの日本企業が過去の成功体験から抜け出せずにもがき苦しんでいます。いわゆる“大企業病”がはびこり、“低成長”という閉塞感に包まれています。それはパナソニックも例外でなく、2017年に日本マイクロソフトから移った私は微力ながら改革に取り組んでいるところなのです。その目的は「パナソニックを強い会社にすること」に尽きます。

当社が強くなるために最も大事なことは「顧客重視」です。柳井さんも「すべての仕事はお客様のために存在する」と著書で述べています。それなのに大企業で働いていると、顧客不在になりがちです。毎日数多くのミーティングが開かれていますが、それがお客さまのためになっているのか、はなはだ疑問なものが実に多い。さらにいうと「給料は天から降ってくる」と勘違いしている社員すら見受けられます。給料はすべてお客さまの財布から出るということを忘れているわけです。