一国の宰相が、祖父らのレガシーを追い続ける

安倍晋三首相は、母方の祖父が岸信介元首相、佐藤栄作元首相は大叔父、父は安倍晋太郎元外相、父方の祖父は衆院議員を務めた安倍寛氏……という華麗なる政治閨閥で知られる。そして、岸氏らが歩んできた道を踏襲しようとしていることも、しばしば指摘されている。

12月19日に外務省が公開した22本の外交文書を熟読すると、そのことがうかがえる記述が随所で見つかった。一国の宰相が、祖父らのレガシーを追い続ける、節操のなさが浮かび上がった形だ。

安倍氏の祖父・岸氏が憲法改正に執念を燃やしていたことは有名だ。達成はできなかったが、退陣後も「自主憲法制定国民会議」をつくり、憲法改正を実現するための国民運動の先頭に立ち続けた。

2018年12月25日、首相官邸に入る安倍晋三首相。(写真=時事通信フォト)

「年来の主張である憲法改正を具体的にできる」

今回、新たに公表された外交文書では、岸氏は1957年6月の訪米を前に、当時のマッカーサー駐日米大使に対し、憲法改正にむけた「2段階構想」を伝えている。

同年5月10日の岸氏の発言要旨をまとめた「日米協力に対する日本政府の決意」によると、岸氏は共産主義勢力の伸張を阻止するため日米両国が「一層団結を強固にすべきである」と表明。日米が、中ソの「軍事力に対抗する備えをすればこと足りるというものではなく、彼らからくさびを打ち込まれる隙のないような心からなる両国協力関係をこの際確立しなければならない」と持論を展開。その具体的な方策として日米安保条約の改定などに取り組む決意を表明した。

衆院選、参院選は安保条約改定をした後で臨み「そうすれば両院とも憲法改正に必要な3分の2の多数を獲得できるであろうと思う。そうしてこそ初めて、自分の年来の主張である憲法改正を具体的に日程に上らせることができる」と予想している。

「日米協力に対する日本政府の決意」という文章名

これが、反対論の根強い安保改定を実行し、その後で国政選挙に臨んで改憲を目指すという「2段階構想」。「日米協力に対する日本政府の決意」という文章名からして、当時の日本が今よりも対米従属だったことがうかがえるが、いずれにしても岸氏が、日米関係強化の文脈で憲法改正を位置づけていたことが分かる興味深い内容だ。

若干話は横にそれるが、この文書には岸氏が、民主主義政治の健全な発達のためには二大政党の存在が不可欠であると語っている点も目を引く。そして岸氏は、外交政策が尖鋭化している社会党内の左派ではなく、穏健な右派勢力が社会党の実権を握るようにしたいという趣旨の話もしている。