経営トップと社員が書生同士のように議論を闘わせる

異動だけではない。将来のテルモの経営を担う次世代経営人材の育成コースへの参加も公募制を導入している。グローバル経営人材の育成を目指したLEO(リーダー・エグゼクティブ・オーガニゼーション)セミナーの定員は約30人。和地会長自ら塾長を務める。04年のスタート当初は30代前半と40代前半の2つのコースに分かれていたが、今は入社3年目以上を対象に1つのコースに統一している。

期間は毎年11月から翌年2月までの約4カ月間。ちなみに今回のセミナーの応募者は約100人。26歳から43歳までの約30人が受講した。一般的に経営人材の育成は会社や部門の推薦による選抜方式をとる企業が多いが、同社はあくまで「機会の平等」にこだわる。また、講義もいわゆるMBA的なスキルを排除し、同社独自のリベラルアーツ教育に主眼を置いている。

「自己啓発やビジネススキルは自分で勝手にビジネススクールに行くか、実務は仕事を通じて学べばいいのです。当社が求める経営人材像を議論したところ、幅広い知識と経験、仕事で培われたリーダーシップ、チャレンジ精神、決め手は人間力という結論に至ったのです。講義ではリベラルアーツを含めた教養に重点を置き、歴史観、世界観を養うことが大局的視点に立つグローバルリーダーを育成することにつながると考えています」(冨田人事部長)

東洋思想、宗教社会学、国際政治の専門家などの講義のほか、グループごとの研究課題をこなす。例えばグローバルに活躍している日本企業を調査して成功要因を分析する。後半では、各グループに執行役員がアドバイザーとして張り付き、これまでの学習や研究成果を踏まえて「テルモが世界で存在感ある企業になるためにどうすればよいか」について経営陣の前で発表する。

「経営に対する提言ですから経営陣も黙ってはいません。会長、社長も厳しい指摘をしてきます。それに対して発表した社員も『社長、私はそう思いません。こうやったほうがいいのではないですか』と平気で反論します。あるいはアドバイザー役の役員が最後に『私が余計なことを言ったばかりに、こんなことになってしまい……』と謝る場面もあるなど結構、白熱した議論も行われます」(冨田人事部長)

経営トップと一社員がまるで書生同士のように真剣な議論を闘わせる企業も珍しい。もちろんこうした自由な雰囲気は決して放縦を許すことを意味しない。人を大切にすることは甘やかすことではないように、機会は平等に与えても「結果は公平」を旨とし、人事制度は年功序列と一線を画している。

賃金・昇格制度は徹底した能力貢献度主義を貫く。同社の社員区分は大きく一般職(組合員層)、主任格、課長・部長格の3つに分かれ、昇格するには登用試験にパスしなければならない。試験は論文と面接が中心だが、主任格から課長・部長格の場合は、さらにアカウンティングの通信教育を修了していることが要件として課される。最も重視しているのは面接であり、面接官は当該部門の役員、人事部長など4人が担当。面接のポイントはずばり「会社を変えられるのかという一点。どんなに真面目にこつこつやっていても期待できない人はだめ」(冨田人事部長)ということになる。

ちなみに07年度の主任格の受験者は240人、合格者124人、合格率52%である。最年少の合格者は30歳、最年長は50歳。課長・部長格の最年少は35歳、最年長は48歳であり、年功序列色は完全に払拭されている。しかも昇格してもその地位は決して安泰ではない。

同社の等級は一般職10等級、主任格5等級、課長・部長格4等級に分かれる。そして年1回実施される能力評価が昇給や昇級の成否に反映されるが、評価しだいでは降格の対象になる。

能力評価の着眼点は(1)企画立案(企画・構想力等)、(2)実践行動、(3)対人組織(リーダーシップ、人材育成)、(4)自己革新(セルフマネジメント、執着心)の4つ。最終的にE(excellent)、H(high)、M(middle)、L(low)、N(No-good)の5段階で評価される。

主任格の場合、2年連続でLの評価がつくか、あるいはN評価が1回でもあると人事部からイエローカードが発行される。さらに翌年も成長が見られずLまたはN評価を受けると降格の対象になる。実際に過去5年間で60人の降格者を出している。

「役割に見合った能力を発揮していないということで落とします。1ランク落としますが、過去に2ランク落ちた人もいます。もちろん、その後再チャレンジして再び昇格した人もいます」(冨田人事部長)