「自制心」はハトでも持っている

では、双曲割引の弊害に立ち向かうにはどうすればよいのか。まずは、自制心(セルフコントロール)と意志を養成することだ。双曲の心理的なメカニズムをよく理解しそれを織り込んだ計画を立てる。まずは一カ月後の「自分」が勝手に計画を変えるかもしれないと知ることだ。

自制に関しては、米国・南コネティカット州立大学のマズール教授らが4羽のハトを使っておもしろい実験を行っている。

最初、同じ遅れを伴った大小2つのエサから1つを選ばせる。ハトは当然大きいほうを選ぶが、小さいエサの遅れを徐々に小さくしていくことで、遅くとも大きなエサを選ぶ「自制心」をハトに植え付けたのだ。結果、1羽は途中で死んでしまったが、残り3羽は11カ月後の実験でも「自制心」が見られたという。徐々に我慢に慣れることで自制が養成される一例である。

とはいえ自制は容易なことではないので、自己規制ルールを設けることもいい。その場合、「誕生日でも1年間はケーキを食べない」「クレジットカードは海外旅行以外では持たない」など、できるだけ単純なものにすることだ。複雑すぎると、将来それを破る口実を作りやすい。そして一度破るとそのルールは使いものにならなくなる。

コミットメント(束縛)手段を使って、ある程度、強制的に自分の手を縛ってしまう手もある。例えば、解約すると手数料が高くつく貯蓄性保険や積立預金、土地など、あえて流動性の低い資産を保有することで、無駄遣いを抑えることができる。

家庭や学校でのしつけや教育の大きな部分は、どうすれば自制心や束縛手段を使って双曲割引に対処するかを子供たちに教えることに費やされている。

そして一度実社会に出ると、今度は私たち一人ひとりが双曲割引の下で一生かけてどれだけ大きな山を積み上げることができるかを、あたかもマシュマロ実験のように試されているのかもしれない。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=山下 諭 撮影=川島英嗣)