「自分が介護されるわけがない」と思っていたら大間違いである。要介護になる原因の第一位は運動器の疾患(通称ロコモ)。東京・丸の内での調査では、20~30代女性の30%に「ロコモが始まっている」という結果が出ている。NTT東日本関東病院・整形外科部長の大江隆史氏は「高齢になって自覚症状が出た時にはロコモが進んでいることが少なくない。働き盛りの世代から予防することが重要」と警鐘を鳴らす。今日から始められる対策とは――。
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「立つ」「歩く」が難しくなる“ロコモ”

ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)をご存じだろうか。骨、筋肉、関節、軟骨、椎間板など運動器のいずれか、あるいは複数が加齢により衰えて障害が起こり、「立つ」、「歩く」といった移動機能が低下した状態のことだ。

最新の「国民生活基礎調査」(厚生労働省 2016年)によれば、転倒・骨折、関節疾患、脊髄損傷などの「運動器疾患」は、要支援・要介護になる最大の原因だ。「認知症」(18%)、「脳血管疾患」(16.6%)を抑えて24.6%を占めるが、この事実は意外と知られていない。認識の低さに危機感を抱いていた日本整形外科学会は、高齢化率が21%となり、日本が「超高齢社会」となった2007年、世界に先駆けて「ロコモ」を提唱した。昨年7月には、集団検診にロコモの診断を取り入れるなど、地域を挙げてロコモの予防に取り組む神奈川県大磯町を世界保健機関(WHO)が視察。「世界のどこも行っていない先進的な取り組み」と評価したという。

ロコモは「高齢者だけ」の問題ではない

NTT東日本関東病院・整形外科部長の大江隆史氏(撮影=プレジデント社書籍編集部)

親の心配ならいざ知らず、自分にはまだまだ関係ないと思っているかもしれないが、ロコモは決して高齢者だけの問題ではない。たとえば、2016年に行われた東京・丸の内近辺で働く20~30代の女性352名を対象とした調査では、参加者の30%が「ロコモ度1(ロコモが始まっている)」、4%が「ロコモ度2(ロコモが進行している)」と判定された(2016年「第3期まるのうち保険室報告書」三菱地所・ラブテリ)。2016年度からは、運動器疾患を早期発見するための「運動器検診」が、学校検診の必須項目に加えられている。

日本整形外科学会が2010年にロコモの予防・啓発の推進を目的に立ち上げた組織、「ロコモ チャレンジ! 推進協議会」の大江隆史委員長は、こう話す。

「ロコモ、すなわち運動器障害に伴う移動機能の低下は確かに高齢者に多く見られますが、運動器疾患がやっかいなのは慢性的に進行し、その経過が長いこと。初期段階では症状がほとんどない状態が長く続くため、患者は医療機関を受診しないことが多いのです。早期発見は極めて難しく、実際に痛みなどの自覚症状が出始めたときには病気がかなり進んでしまっていることが少なくない。高齢となって症状が出る前の若い年代、働き盛りの年代からロコモを知り、予防的な措置を取ることが極めて重要です」