ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と京都大学の山中伸弥教授。時代を代表する経営者と科学者にはさまざまな共通点がある。そのひとつが「村上春樹の小説を愛読している」という点だ。2人はどんなところに惹かれているのか。そしていま何を考えているのか。5つの論点で語り合った。貴重な初対談の内容をお届けしよう――。

※本稿は、「プレジデント」(2018年7月16日号)の掲載記事を再編集したものです。

【1】変化と普遍について

──山中先生のご専門である生命科学をはじめ、人工知能(AI)などさまざまな分野で技術の猛烈な進化が起きています。それによってビジネスは、生活はどうなるのか。迷い悩んでいる人は多いと思います。お二人はこうした「変化」について、どうとらえていますか。

【柳井】どんな変化が起きるのかわかっていたらこれほど面白くないことはないですし、誰にも変化は予測できません。そもそも世の中のほとんどのことはまだ解明されていませんよね。人体でも宇宙でも、何でもそうでしょう。AIがブームになって何か万能のように言われているけど、本当にそうなのかなと思います。

【山中】同感です。私が医学部を卒業したのは1987年です。そのころガンに関する画期的な発見が相次いでいて、「2000年にはガンが克服されているだろう」という未来予測が信じられていました。

しかし、30年経ったいまでもガンは克服されていない。予想は完全にはずれです。かたや、iPS細胞の技術やゲノムの解析技術が急速に進んで、誰も予想していなかった成果もあがっています。ですから、よくも悪くも10年後、20年後の変化はわからないだろうと思います。

そうした前提に立つと、大切なのは、未来を決めてかからずに、どんなことが起きても対応できるように、「受け皿」を用意しておくことじゃないでしょうか。僕たちの世界でいうと、アメリカでは変化にぱっと飛びついて機敏に取り入れる人と、もうちょっと慎重にやろうという人が半々です。一方、日本は様子見をする人が圧倒的に多い。結果、後手に回ることが多いので、日本でも飛びつき型の人が増えるといいなと思うんです。

【柳井】うーん。飛びつくことには僕は反対なんです。というのは、僕は2018年に69歳になりましたが、いまだに自分自身のことも、自分のビジネスのこともよくわからない。いまのような立場で仕事をしている理由も本当にはわからない。ただ、僕はこれまで「変化に飛びつく」ということをしてきたわけではなく、世の中がどうなろうともやっていけるように、人間としての普遍的な能力を高めたほうがいいだろうという考え方でやってきました。

変化があれば、それなりに困難なことも起きるでしょう。でも、そんなに大変なことではないはずです。そもそも困難に挑むのは楽しいことじゃないですか。自分の能力を高めて変化を楽しむ、困難を楽しむ。そういう精神が特に日本人には必要だと思います。