そこで始めたのが社長塾です。全国各地区に出向き、店舗経営指導にあたるスーパーバイザー(SV)たちを集め、管理職抜きでトップと第一線が垣根を取り払って、あるべき姿について本音で語り合う。夜は居酒屋で熱く議論しました。

ある若手は忙しくて恋人もできないという。聞けば、本部からの指示に振り回されていた。

私はいいました。この1週間に3つだけ実行しなさい。お店を訪問し1時間かけて売り場をよく見る。もし弁当が2個しかなかったら、お客様はどう思うか、本来はどうあるべきか、店長と話し合ってみる。そして、翌週、どんな変化があったか見てください。こうして戦闘力を立て直していったのです」

組織の壁を取り払う動詞ベースの発想と行動

人間の発想や行動には名詞ベースと動詞ベースとがある。仕事を○○部、××部といった組織別に縦割りし、固定化するのが名詞ベースだ。ファミマの本部がPとCだけを行っていたのは典型だ。

一方、売り場はどうあるべきで、いかに実践していくか、顧客の満足を起点にするのが動詞ベースの発想と行動だ。このとき、組織別の壁は意味がなくなる。

社長塾は、社長対SVという名詞(=名刺)の違いを超え、ファミマに欠けていた動詞ベースの仕事の仕方を植えつけるためのものだった。その積み重ねは現場から、新しい動きを生み出していく。

「あるとき、社長塾で議論した社員たちが、ファミリーマートはどうあるべきか、自分たちで考え、提言するサークル活動をやりたいといってきたのです。シメタと思いました。企業文化を変えるチャンスだと。4年前のことです。

この活動が各地区で次々と沸き上がり、やがて、“ファミリーらしさ推進運動”となって全社に拡大していきます。ワークショップ形式で参加者の肩書も関係なければ、マニュアルもない。私も顔を出せば女子社員の隣で発言します。

初めのうち、営業担当の活動だから、自分たちは関係ないと傍観していた他の部門も次第に意識が変わっていきました。商品本部が開発して大ヒットした店内調理のフライドチキンも、この活動の中から生まれたものです。

うれしかったのは、配送業務を委託している物流会社にも広がったことです。配送のドライバーがたまたま店舗の前で動けなくなっていた自動車の応急措置を手助けした話や、お年寄りのお客様がもっていた重い荷物を運んで差し上げた話が、ご本人からお礼の言葉とともに本部に届く。心から感動します。

そして、2年前の07年のころから加盟店も巻き込むようになった。結果的にその年の後半から既存店売上高が対前年比プラスに転じていったのです」