富士山の周囲168キロメートルを夜通し走る「ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)」。世界一のレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」の初の姉妹大会です。開始は2012年ですが、そこに至る道のりはレースのように過酷なものでした。鏑木毅氏が、個性派メンバーをまとめてプロジェクトを成功させたコツを紹介します――。

※本稿は、鏑木毅『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(実務教育出版)の第6章「開拓者として生きる:プロトレイルランナー、レース運営の哲学」の一部を再編集したものです。

(写真提供=トレイルランニングワールド)

富士山を走って一周する46時間のレース

ヨーロッパアルプスの最高峰、フランス・イタリア・スイスにまたがるモンブランのまわりを1周するトレイルランニングのレースがあります。フルマラソンを4回分、丸1日で走るというだけでも信じられないのに、その間に標高2500メートル級の山をおよそ10個、累積標高差9600メートルの山道を駆け上り、駆け下りるというのですから、その桁外れのスケールたるや、想像もつかないかもしれません。

これが、僕が人生を賭けて挑戦してきたウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)という化け物の正体です。毎年8月に開催されるUTMBは、すべてのトレイルランナーにとってあこがれの舞台であり、まさに世界一の山登りランナーを決めるのにふさわしい難コースです。

UTMBのようなレースを日本にもつくりたい。モンブランのあの興奮、あの舞台、あの文化、あのホスピタリティを日本人にも体験してほしい。それには日本一の富士山を一周するコースがふさわしい。これらの思いが結実したのが、ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)です。

距離は約168キロメートル、累積標高は約8000メートル。コースは富士山を一周する山道で、制限時間は46時間。トップ選手でも20時間程度なので、夜通し走ることになります。

UTMFはUTMBとウルトラトレイルの精神を共有する世界初の姉妹大会で、2012年に始まり、半周コースも含めると、いまでは2000人以上の方が参加されています。

日本一の大会を実現するメンバーに求めた3条件

最初からプロジェクトチームがあったわけではありません。しかし、「富士山を走って一周する」という前代未聞のコンセプトは、シンプルなだけにインパクトも甚大で、たくさんの人を魅了しました。ワクワクするようなロマンあふれるアイデアだったからこそ、ただのムーブメントで終わらず、多くの仲間たちの協力を得て、実現に向けて動き出したのです。

UTMFの実現に向けて、プロジェクトチームを立ち上げました。実働部隊であるメンバーを決めるに当たって、僕が意識したのは次の三つです。

一つめは、想いが強い人。何が何でもこの大会を実現したい、という情熱を持っているということです。

二つめは、責任感の強い人。「これをやってください」と言われたら、期日までにしっかりやるということです。

三つめは、コミュニケーション能力がある人。大勢の人がかかわるプロジェクトなので、話し上手で説得力のある人がいると助かります。

この三つが全部揃っている人がいれば理想ですが、どれか一つでも持っていれば、それぞれの得意・不得意を見極めて、適材適所で仕事を割り振ることでチームとして機能すると思って人選を進めていきました。