【ジョン・ウー】 私は昔から日本映画が大好きで、日本の文化に感化されてきました。日本でもいつか日本の素晴らしい精神文化を表現した映画が作られることを願ってやみません。たとえば武士道。宮本武蔵の『五輪書』などは代表的で、三国志と同じように全世界に広めることができたらいいなと思います。

【北尾】 中国の精神文化を受け継いで、日本独自の発展を遂げたのが「武士道精神」です。残念ながら、「武士道精神」を持っている日本人はもうほとんどいません。封建的なものはすべて悪として捨て去る戦後教育が占領軍によって植えつけられたからです。

当然の結果として、日本人の精神性は非常に弱くなった。中国も文化大革命などを経て古典的な精神文化を理解している人が随分といなくなったと思いますが、今また中国出身のウー監督が、東洋の精神を普遍化できるような形で映画化されているのは大変素晴らしい。

【ジョン・ウー】 日本と中国は精神や文化の面で共通点がたくさんある。私は中国映画を大切に考えていますが、機会がありましたら日本映画もぜひ撮ってみたい。任侠物なのか、現代物なのかわかりませんが、皆が懐かしいと感じる、未来に残すべき古き良き精神を表現したいと思います。

【北尾】 今回、映画の訴求力というものを改めて感じました。その力を以って日本の伝統的文化を世界に発信してくれるクリエイターがいたら、大変尊敬するし、ありがたい。

遍く世界に、しかも幅広い世代に受け入れてもらうには、それなりのスケールや壮大さが必要なのでしょう。今の日本映画はあまりお金をかけないし、世界的な評価を得ている監督も少しおられるようですが、日本の精神文化を世界に発信するところまではきていない。だからウー監督にはぜひトライしていただきたい。映画を通じて世界とアジアの距離が縮まり、互いの理解が深まれば、これは素晴らしい世界貢献です。

【ジョン・ウー】 それはまさしく私の宿願です。西洋には東洋に対する誤解があるとよく言われますが、本当は相互理解が足りないと思います。相手を理解することも必要ですが、相手に理解してもらう努力も大切です。橋渡し役として、東洋の精神世界というものを映像を通して伝えていきたい。一つポイントはロマンだと思います。封建的に見られがちな武士道もロマンチックな要素を加えた手法で映像化すれば現代にも十分通じるし、西洋の人々にも理解しやすい作品になりうる。

【北尾】 東洋人はロマンチシズムを美なるものとしてあまり受け入れない部分がありますから、そこはウー監督に大いにモディファイしていただくしかない。

【ジョン・ウー】 いやいや、日本人も本当はとてもロマンチックですよ(笑)。

(小川 剛=構成 岡倉禎志=撮影)