キャリアの中期以降は、成長という視点から見て、決してアガリのポジションではなく、この時期こそ、本来の意味での自律的成長が求められるのである。企業からのおしきせではなく、自律的に、自分で学習すべき内容を決めて、成長していく。それも、企業やその戦略の変革に合わせた自律的成長である。そのため、自律的成長という言葉よりは戦略的成長と言うほうがよいかもしれない。そうした「大人の学び」が盛んな企業ほど、企業としての強みを維持できる時代になってきたといえよう。

ただ、実際には、こうした大人の学びを、キャリア中期から後期の人材に求めるのは難しい。幾つかの壁がある。

まず、モチベーションの壁である。一般的に、大人の学びは、それが自律的であるだけに、内発的意欲によって支えられている場合が多い。テストで点をとりたいとか、昇給、上位のポストなどを目指す、というだけではなく、学ぶこと自体に意味とか、意義を見出すことで動機づけられるタイプの学習である。

だが、貢献期の人材は、多くの場合、基本的には、成果を挙げることで報酬が得られる時期に入っている。つまり、インセンティブは成果を挙げることに対して提供されるのである。逆に、例えば、なりたい自分を目指しての、新たな能力やスキルの学習は、一時的にせよ、成果を挙げることを邪魔する可能性がある。学んでいる間、成果が低くなるのである。特に、成果主義のもと、この傾向は強い。成果主義のインセンティブが、学習意欲の邪魔をするのである。

第二に、レリバンシーの問題がある。

レリバンシーとは、関連性などと訳されるが、本当の意味は、学習内容が自分にとってもつ意味とか意義のことである。つまり、ある内容を学ぶことが、自分にとって意味があるかということである。同様の概念に実務性(prac ticality)があるが、これは、もっと直接に、今の自分の仕事やキャリアに役に立つかどうかを意味し、主にキャリア初期で問題にされる種類の意義である。「大人の学び」に関する理論では、学ぶことのレリバンシーが、内発的意欲へと転換され、学ぶ意欲の基礎になると考えられている。