「大人の学び」が盛んな企業ほど強みを維持できる

考えてみると、多くの企業では、これまで働く人の学びの時期を、キャリア初期からミドルぐらいまでの、いわゆる「成長期」だと考え、そこに多くの育成資源を割いてきた。この文章が掲載される頃には、新入社員研修を終えた新人クンたちが、現場に配属されているところだろうか。

以前に比べると弱体化してきたとはいえ、現場では、ゼロ人前を一人前にするためのOJTが始まる。多くの時間と、上司や先輩のケアがそこには費やされるはずだ。また、それ以降も、比較的短い間隔での定期研修やローテションと、職場でのOJTが続く。新入社員からキャリア中期までの人材育成の仕組みについて、問題がないというわけではないが、キャリア初期に関して、最も心を砕いてきた企業は多いだろう。

だが、同時に多くの企業で、キャリア中期からの「貢献期」においては、どちらかと言えば、働く人に成長ではなく、成果を求める傾向があるのも事実である。また、マネジメントも、成果に重点をおいたマネジメントである。

さらに、これに呼応して、働く人も、成長期であるキャリア初期には、一所懸命“学習”や“成長”に専念するが、キャリア後期の、いわゆる貢献期に入ると、もう成長ストップという感覚をもっていたことが多かったのではないだろうか。成長は、主にキャリア初期になされ、それ以降は完成品としての人材として会社に貢献することが、キャリアに関する通常の考え方だった。

でも、そんなことを言っていられない時代に入ったのである。新たに求められるのは、新たな状況に置かれたときや、異なった戦略のもとで必要なスキルやコンピテンシーを探して、積極的にこれを学んでいくタイプの成長である。「縦の成長」に対応する言葉としては、ややメタボチックに聞こえるかもしれないが、「横の成長」がいいかもしれない。そして、ここで必要とされるのは、近年の学習理論がいう、「大人の学び」(adult learning)である。

大人の学びが、それまでの学び(例えば学校で行われる)と違うのは、学ぶ「目的」や「テーマ」を、学習者が自ら設定し、それに合わせて、「手段」や「動機づけ」を選んでいく傾向があるという点である。わかりやすい言葉で言えば、学ぶ個人の自律性に強く裏打ちされた学習だといえよう。