7月、岐阜県高山市に新たな神社が建立された。お笑いコンビ「流れ星」の漫才に出てくる「肘神様(ひじがみさま)」を祀っているため、「肘神神社」と名付けられた。神社は勝手に作ってもいいのか。宗教社会学者の岡本亮輔さんは、「由来不明な神仏がある日、急に爆発的な人気を博す『流行り神』現象は、古くから繰り返されてきた。『肘神様』は、その典型的な発生プロセスを踏んでいる」と解説する――。
岐阜県高山市に建立された肘神神社

岐阜県高山市に建立された「肘神神社」

7月31日、岐阜県高山市で新たな神社が建立された。肘神(ひじがみ)神社である。翌日8月1日には肘祭りが行われ、多くの人が集まった。

同社の元になったのは、人気お笑いコンビ・流れ星の漫才だ。2013年の『THE MANZAI』(フジテレビ系)で敗者復活から勝ち上がって披露された肘神様のネタの衝撃を覚えている人も多いだろう。今年8月に発売された流れ星のツッコミ・瀧上伸一郎さんのエッセイ『肘神様が生まれた街』(KADOKAWA)は、同社の創建譚として読むことができる。

「肘神さまの神社はどこにあるんですか?」

流れ星の2人は、共に高山市出身だ。とはいえ「飛騨高山」として観光地化された中心街からは離れており、なかなかに衝撃的な田舎だという。各種の動植物や星空など自然が豊かなのはもちろんだが、同書によれば、瀧上さんの小学校は、男子3人女子3人の“合コン状態”の人数しかいなかった。野球をする時には教員も混じらざるをえず、時に投手・校長と打者・教頭という、生徒おいてきぼりの対戦が繰り広げられていたそうだ。

その後、高校を卒業し、大阪の理容学校を経て、六本木のサパークラブなどでバイトしながら路上ライブを行い、嫌なマネージャーとの軋轢を乗り越えて売れていく様は、ベストセラー小説・又吉直樹『火花』(文藝春秋)を彷彿とさせる。そして前述の通り、2013年、テレビで肘神様のネタを披露して有名になるのだが、それ以降、「今度岐阜に行った時、肘神様の神社に行きたいんですけど、どこにあるんですか?」と聞かれるようになったそうだ。

もちろん、肘神様はネタである。「そんな神様、いるわけない」のだが、ベタに受け止められてしまったのだ。瀧上さんは、岐阜のマイナーさと八百万(やおよろず)の神々という日本の宗教風土があいまって、岐阜あたりに行けば本当に肘神様くらいいると誤解されたと的確に解釈しているが、この現象は、古くからくり返されてきた流行神(はやりがみ)現象と関係づけて理解してもよいだろう。