●日本企業内の昇進・評価

さらにフラット化した組織では人間関係の不協和音も発生しています。経済学では「組織構造面の特徴を所与として、そこから生じるインセンティブの問題を軽減するように日本の報酬システムは設計されている。(中略)つまり短期的な賃金体系と長期的な昇進のインセンティブがトレードオフになる(*1)」(伊藤秀史)と考えられてきました。

しかし、企業従業員調査の実証分析では、成果型人事制度を導入し組織構造がフラット化した場合、「賃金」満足度は低いまま、「昇進」満足度も低く、同時に「評価」満足度も大幅に低くなるため、結果としてインセンティブ機能が欠如し、組織の求心力が弱まっています。

フラット化による長期的昇進機会損失のデメリットが、成果型人事制度による短期的賃金査定のメリットを上回り、そのため人間関係による不協和音が起きていると考えています。

では、組織フラット化の成功事例として注目を浴びる米グーグルはどうなのでしょうか。

米グーグルの採用人材は、本社求人広告によると「専門知識のある、自律行動的でリーダーシップのある個人」というキャラクターが示されています。また従業員の人材開発要件を読みますと、「誰もが強いリーダーシップを持つこと」がビジョンとして描かれています。では、強いリーダーシップを持つ個人が営む組織運営とは具体的にどのようなものでしょうか。次の2点に整理できます。

(1)曖昧さの少ないディべート型の意思決定手法

国内でディベート型の意思決定にイメージが一番近いのは大学組織の「教授会」です。研究のプロフェッショナルが営む教授会とは、「決定手法が平等」なフラット組織で、その意思決定では理論構築力、対話力、議論力を駆使した話し合いが展開されています。首都圏の大学数校で聞き取りをした結果、その意思決定はディべートに近い議論を経て決裁されていることが多いことがわかりました。