街中の歩道で、工事現場やスーパーの駐車場入り口などを通りかかると、いきなり警備員が進路に立ち、両腕を広げる身ぶりで、歩行者に停止を求めてくることがある。これはいうまでもなく、車両が歩道を横切ろうとしているため、歩行者に危険を知らせ、身の安全を確保するための行為だ。

しかし本来、歩道は歩行者が優先であり、警備員が事故を防ぐために止めるべきなのは人ではなく車両だ。歩行者が多く、車両を通行させるためにやむをえず行っている場合が多いが、時には警備員の雇い主や、その顧客の車両を「身内びいき」しているように見えることもある。

過失割合の例

過失割合の例

このほか、道路工事などでも警備員が車両の通行を誘導することがある。これらの行為には法的な強制力はあるのだろうか。

警備業法15条には「警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たっては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意する」とわざわざ書いてある。つまり、警備員の停止指示に法的強制力はなく、「停止のお願い」にすぎない。交通整理の警察官が停止を命じれば、法律上の強制力が生じ、赤信号と同じ扱いになるのとは対照的である。事故防止のための「お願い」は、受け入れることが望ましいが、「お願い」が不合理であるならば、従わなくても違法ではない。

では、警備員の停止指示に協力しなかった結果、交通事故が発生した場合、損害賠償の責任関係に影響はあるのだろうか。

交通事故の問題に詳しい横張清威弁護士によると、「協力しないことによって事故が発生した場合、過失相殺で不利になる可能性がある」と説明する。

たとえば、車両が駐車場などの私有地から公道へ入る際に、直進車と衝突した場合、原則として過失割合は、進入車と直進車で「8対2」。すなわち、修理費用や治療費が10万円かかったのなら、進入車の運転手が8万円を負担することとなる。

「ただし、警備員の停止指示に逆らって公道に入り、同じように直進車と衝突したのなら、これは進入車の『重過失』として扱われる可能性が高くなる」(横張弁護士)