年金を頼りに悠々自適なセカンドライフを満喫している人たちがいる。定年後、暮らしの場を海外に移し長期滞在している高齢者が増えているのもそのひとつ。この人たちを調べてみると、日本の住居をすべて処分し、永住を決意して海外に移り住んでいる人と1年のうち半年間、あるいは3カ月間ほどの期間を限定して海外暮らしをしている人に分かれる。永住ともなれば相当の覚悟が必要で、簡単な気持ちで他人に勧めることはできないが、期間限定で日本と海外を行ったり来たりの生活ならば、現実味のある“豊かさ”の実現の可能性が増してくる。

タイのチェンマイで海外暮らしをしているMさん(68歳)は、桜の季節とマツタケの季節は日本で暮らし、夏と冬の半年間はチェンマイの300平方メートルを超える豪華なマンションライフを満喫している。すでにこの暮らしも10年近くになり、この間いろんな経験をしてきた。ご主人もこの地で看取っているのだから半端ではない。

「こんなに広い部屋を借りても家賃は15万円かかりません。100平方メートル以下なら5万円くらいでも見つけることができます。物価も日本に比べれば本当に安いです。年金だけで十分に贅沢な暮らしができますよ」

同じタイでも首都バンコクでは家賃もこれほど安くないが、チェンマイであれば可能だ。寺院が数多く点在し、日本の昭和40年代の風情にどことなく似ている街で、高齢者がゆったりとした気分で暮らすには申し分ない。体調を崩したご主人は、月額2万円程度で毎日マッサージを受けることができ、医療サービスにも不安がなかった。

「年金をベースに海外暮らしを考えようとしたとき、体調を崩した場合の対応が気がかりでしたが、覚悟さえ決めれば何とかなるものです(笑)」

現地の調査や計画に時間をとられ、気がついたときには海外に踏み出す体力や気持ちが萎えてしまっているケースも多く、海外暮らしを実行に移せない人たちの特徴でもある。

しかし、現地での暮らしが無計画では、年金暮らしはおぼつかなくなる。

オーストラリア・パースで海外暮らしを継続しているTさん(65歳)は、家計簿を毎日欠かさずつけるくらい金銭管理にきめ細かな注意を払っている。

「お金の計算ばかりしていると楽しくないと思われがちですが、ゲーム感覚で取り組めば、日々の暮らしにメリハリが出てきますよ」

婦人雑誌の新年号の付録についている家計簿を使って、毎日為替の推移や定期預金の金利を記録し、ベストのタイミングで日本円を現地通貨に交換する。日本に暮らしていたら、こんなに市場の動きが気になることもなかったはずで、年金不安に戸惑うだけの日々を送っていたことだろう。

「海外で暮らしていると日本の状況がよく見えてきます。自分の力で年金や資産を守っていると思うと愉快ですね。それでいて、こんなに美しい町に暮らしていられるんだから楽しくて仕方がない。お金はそんなにないけれど、精神的な余裕が大きな財産ですよ」

Tさんの暮らしぶりは、豊かさとは何かを考えさせられる。

海外暮らしには大きなリスクがあることは間違いない。無計画で理想を追って海外に渡った人の多くは失敗している。夫婦で十分に話し合わなかったために、ハワイに購入した住宅に寂しく一人で暮らす男性もいる。思い切る覚悟と日々の生活に対する執着。このバランス感覚が年金でも豊かに暮らせる方法を見つける極意となる。