これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、東海旅客鉄道(JR東海)の柘植康英会長のインタビューをお届けしよう――。

2017年の国鉄分割民営化から設立30周年を迎えたJR東海。主力事業の東海道新幹線で東京、名古屋、大阪の“大動脈輸送”を支え続けてきた。27年は名古屋までリニア中央新幹線が開通する予定だ。

JR東海 鉄道以外の関連事業は約10倍の規模に拡大

東海道新幹線は開業以来、乗車中の利用者の死傷事故が一件もない。「『安全』という大切な哲学が脈々と受け継がれている」。その哲学を守るため、AIの時代に突入しても、柘植康英会長は「『人』の力が重要だ」と説く。

東海旅客鉄道(JR東海)会長 柘植康英氏

──JR東海の現状と課題は。

JR東海がこれまで担ってきた使命は、東海道新幹線による日本の大動脈輸送の維持、発展です。新幹線が結ぶ3大都市圏に日本の人口の50%超が住んでおり、JR東海は日本経済のエンジン部分を輸送を通じて支えてきたと思っています。一方で商業施設やオフィスビルの運営なども拡大してきており、鉄道以外の関連事業は会社発足当時の約10倍の規模に膨らんでいます。

現在の大きな課題といえば、リニア計画です。リニアの工事は歴史的にみても類をみない難工事となります。ただ、いつ起きるかわからない大規模災害に備えるためにも、大動脈輸送を東海道新幹線一本に頼るのではなく、早急にリニアを完成させて、動脈の二重化をしなければならないと思っています。

──創業からこれまで運行中の新幹線の死傷事故はゼロ(利用者由来の人身事故などは含まない)。この要因は。

私たちの会社にはルールを確かに守りぬくという風土があります。安全を保つということは「石橋を叩いて渡る」ということだと思っています。鉄道は自由奔放というわけにはいかないのです。

安全を守る風土に加え、新幹線をつくり上げた世界最先端の技術、そして高いモチベーションを保ち続ける人(社員)です。この3つが経営の大前提です。特に人の力は、鉄道にはなくてはならないもの。鉄道は、運転手に車掌、線路の保守をする人など多くに支えられています。現場には、大卒もいれば高卒もいます。その人たちが一致団結しなければ安全は保てないのです。