オフィスやロビーで、小音量の音楽をかけている会社は少なくない。音楽は、ざわざわとした心を沈めたり、熱くなった頭を冷やしたり、ビジネスパーソンにはうれしい効果がある。さらに、この厳しい暑さを和らげ、爽やかな気分になれる夏にふさわしいクラシック曲を、演奏家を支援するNOMOSの渋谷ゆう子代表が紹介する。
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誰でも知っている「夏」のクラシック曲

季節にちなんだクラシック音楽で、まず思い出すのは、やはりヴィヴァルディの『四季』だろう。音楽の教科書に必ず登場するおかげで、第1曲目の『春』の冒頭は誰もが一度は必ず耳にしている有名曲だ。この2曲目が『夏』である。

『夏』の中でも特に、テンポが速くダイナミックな第3楽章は、テレビCMやドラマなどに多く使われており、楽曲名を知らなくても、「これ聞いたことある」という人が多くいる、馴染みのある名曲だ。とくにヴァイオリンの激しい音色にハッとする、心をぐっと惹きつけられる1曲である。

ただし、この楽曲は夏の爽やかさというよりも、雷や嵐といった夏の気候の荒々しさをイメージさせるので、少々オフィスにはそぐわない。名曲ではあるのだが、落ち着かない。この曲は、仕事のシーンにはどうも向かない。

『四季』といえば、チャイコフスキーの12カ月のピアノ曲もある。ロシアの当時の暦で作曲されているので、実際の日本の四季とは若干ずれているが、この中の6月『舟唄』、7月『草刈人の歌』は、夏の曲と言っていいだろう。しかしながら、『舟唄』は短調で物悲しく、夏の清々しさは感じられない楽曲である。

『草刈人の歌』にいたっては、草を刈っているだけあってどこか牧歌的で、ピリッと背筋を正して仕事に向かう雰囲気がでない。お日様を浴びて草刈りでもしましょうでは、パソコンに向かうより、ガーデニングを楽しむ雰囲気になってしまう。ジリジリした太陽を避けてモニターを凝視するオフィスで、のどかな土いじりを彷彿とさせるわけにはいかない。やはりロシアの夏を表す楽曲も、やはりオフィス向きではない。ヨーロッパの夏の曲も、ロシアの夏の曲も合わないとしたら、南半球に移ろう。

アルゼンチンの夏の曲は、セクシーすぎる

南半球の夏の曲として、紹介したいのはピアソラの名曲『ブエノスアイレスの夏』である。アストル・ピアソラはアルゼンチン生まれで、タンゴの要素にクラシック音楽の理論やジャズの要素を取り入れた作曲家である。

その曲は日本でも広く演奏されていて、『リベルタンゴ』などはテレビCMにも使われている。『ブエノスアイレスの夏』というだけあって、アルゼンチンのタンゴに根ざした気質と、気だるい湿度を感じる憂いある楽曲だ。メロディアスでセンチメンタルな部分もあって、大変セクシーな雰囲気を持つ。

センチメンタルでムードのある夏の曲。はてさて、これでは仕事に向かえようはずもない。むしろ、夕暮れ時が待ち遠しくなり、街に繰り出したくなってしまう。やはりこの楽曲の雰囲気もまた、オフィスには向いていない。すでにおわかりのように、どうも「夏」という言葉をふくんだタイトルの楽曲は、休日に夏っぽさをしっかりと味わうにはいいが、オフィス向けではないと言える。

では、オフィスで流すための夏向きのクラシック曲はどのようなものだろうか。