そして、普及する途上でネーミングの果たした役割も少なくないだろう。

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」という商品名の意味するところは、末尾の「少し辛いラー油」ということなのだろうが、それをわざと冗長にすることで、コミカルなイメージを醸し出している。あえて製品の特性をこの長々とした商品名を用いて説明することで、話題性を喚起する仕掛けがあったのだ。

本格的なマーケティングを展開するうえで、一般にプロモーション活動は不可欠の手段である。だが、食べるラー油という大ヒット商品に関しては、冒頭にも記した通り、現在でも品薄状態が続いており、プロモーション活動は必要ないどころか、無用な消費者扇動につながるという意味で罪悪とすらいえる。実際、この種の自重がはたらき、桃屋は09年10月12日以降、一切広告宣伝を行っておらず、エスビー食品はプレスリリースや自社ホームページを除き発売当初からそれらをまったく実施していない。

ただ、これは爆発的なヒット商品になってしまったがゆえの特殊ケースで、桃屋に関しては、09年10月12日より前にはマスメディアも駆使した絶妙なメディア・ミックスを展開している。それは非常に巧みで大きな成果を挙げていた。

桃屋の森本氏によると、「この商品(食べるラー油)は、当社がWEBで本格的につき合った初めての商品です」とのことで、「メディア別に段階的に情報公開をしたことにより、WEBでクチコミが広がった」という。

実際、09年8月の発売直後から商品サンプルを閲覧者がもらったり、試したりできるサイト(モラタメ、サンプル百貨店)や日本最大の食品クチコミサイト(もぐなび)に食べるラー油の情報を提供し始めた。そして、WEB上でクチコミがかなり広がったところで、テレビCMを投入し、大ブレークしたのだった。

テレビCMは、ロックバンド怒髪天の増子直純氏をメーン・キャラクターに使ったものを10月1日から12日まで行っている。広告クリエーティブは、彼が同社の商品を餃子やサラダ、冷奴などにかけ、最後にご飯にかけて勢いよく口の中に放り込み、一言「うまッ!」と叫んでシメるものだ。非常にインパクトのあるビジュアルやパンチの利いた言葉を発して未知の商品の特性や用途をアピールしている。

WEB・クチコミというニューメディアとテレビCMというオールドメディアの絶妙なタイミングの「結合」が大ブレークを生むキッカケになったといえる。ここにも商品特性と同じ水平思考が息づいていたのである。